殺人事件の被告人に「警察が使うDNA検査ソフトのソースコードをチェックする権利」が認められる
指紋照合システムやDNA検査ソフトウェアといったテクノロジーは、法執行機関による捜査の精度や速度を向上する上で必要不可欠な存在です。その一方で、法執行機関に逮捕・起訴された被告人が捜査に使われたテクノロジーに疑義を呈する権利も認められるべきだとして、アメリカ・ニュージャージー州の裁判所が「DNA検査ソフトウェアのソースコードをチェックする権利」が殺人事件の被告人にあるとの判決を下しました。
A-4207-19T4 - STATE OF NEW JERSEY VS. COREY PICKETT (17-07-0470, HUDSON COUNTY AND STATEWIDE).pdf
(PDFファイル)https://www.eff.org/files/2021/02/03/decision_appdiv_232021.pdf
No Secret Evidence in Our Courts | Electronic Frontier Foundation
https://www.eff.org/deeplinks/2021/02/no-secret-evidence-our-courts
Accused murderer wins right to check source code of DNA testing kit used by police • The Register
https://www.theregister.com/2021/02/04/dna_testing_software/
2017年4月16日、ニュージャージー州の第二都市であるジャージーシティで、車にのっていた10代の男性が銃で撃たれて死亡する事件が発生しました。この事件で逮捕された当時21歳のコーリー・ピケットは殺人容疑で告発されていますが、ピケットの弁護団は「捜査に使われたソフトウェアのソースコードを調べて信頼性を評価したい」と主張しています。
弁護団が調査したいと考えているのは、アメリカのソフトウェア開発企業・Cybergeneticsが開発したTrueAlleleというDNA検査ツールです。TrueAlleleは統計学的手法を使用してDNAを分析することが可能なソフトウェアで、複数人のDNAが混入されたサンプルなど、従来の検査手法では高い精度が発揮できないケースでも正確にDNAを識別できるとされています。
TrueAlleleは、ジャージーシティの事件で殺人に使われた銃器から検出された遺伝子サンプルの分析にも使用され、この分析結果がピケットを犯罪と結びつける証拠となりました。この一件についての審理の中で弁護団はTrueAlleleのソースコードを分析したいと申し出ましたが、Cybergeneticsは競合他社に秘密が漏れる可能性があるとして拒否したそうです。Cybergeneticsは、ソフトウェアのソースコードは企業秘密であり、MATLABで記述された17万行にわたるソースコードを詳細に分析するには、8年以上の時間がかかるとも述べています。
最終的にCybergeneticsは弁護団に対し、「ソースコードの漏えい時には100万ドル(約1億500万円)の罰金を支払う」との機密保持契約を結ぶ条件でソースコードの調査を許可しました。しかし、弁護団は厳格な罰則が伴う契約によってソースコードを分析する専門家の参加が妨げられると主張したため、双方が合意に達することができませんでした。
弁護団の申し出は下級裁判所で却下されましたが、これに対して弁護団は控訴し、審理は控訴裁判所に持ち込まれました。弁護団は過去にSTRmixなどのDNA検査ソフトウェアにコーディングエラーがあった事例を挙げ、ソフトウェアのエラーや隠された機能が被告人の不利にならないことを証明する必要があるとして、ソースコードのチェックする権利を認めるよう求めたとのこと。
審理の結果、被告人には事件に関与するソフトウェアを理解し異議を申し立てる権利があるとして、控訴裁判所は弁護団を支持する判決を下しました。これにより、弁護団はTrueAlleleのソースコードを分析し、問題があれば指摘できるようになります。
電子フロンティア財団の上級弁護士を務めるKit Walsh氏は控訴審の判決を歓迎し、「誰であっても、信頼性を公正に評価できない秘密の証拠に基づいて、投獄されたり処刑されたりしてはなりません。今回の判決は、そのような不正を防ぐのに役立つでしょう」と述べました。
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