モルモットの脳が作り出した電気信号を人間の聴覚系が識別できることが判明
人間を含む動物の神経細胞は電気信号を用いてさまざまな情報伝達を行っており、これを利用して脳とコンピューターを接続するブレイン・マシン・インタフェースの開発が進められているほか、動物同士の脳を接続するブレイン・ブレイン・インターフェースの研究も行われています。新たに、モルモットの脳が生成した電気信号を人間に送信し、その内容を理解できるのかどうかを調べた実験の結果が、科学誌のScientific Reportsで発表されました。
Listening to speech with a guinea pig-to-human brain-to-brain interface | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-021-90823-1
近年では、脳の活動を読み取ってコンピューターを直接制御するブレイン・マシン・インターフェースに加え、動物同士の脳を接続するブレイン・ブレイン・インターフェースも注目を集めています。2013年の実験では、ブラジルで飼育されているラットに「光がついた時にレバーを押すと水が出てくる」ことを覚えさせ、その脳に極小の電極を埋め込んでコンピューターに接続。さらにアメリカで飼育されているラットにも電極を埋め込み、ブラジルのラットが発する電気信号をコンピューター経由で送りこんだとのこと。すると、アメリカのラットは訓練を受けていないにもかかわらず、レバーを押して水を飲むことができたそうです。
また、2019年の研究では3人の被験者のうち2人が脳波計を使って電気信号を送る「送信者」に、1人が経頭蓋磁気刺激法を通じて電気信号を受け取る「受信者」となり、3人でテトリスに類似したゲームをプレイする実験が行われました。この実験では、送信者のみが積み上がるブロックを回転させるべき方向を知っており、回転させる方向に応じて特定の周波数で点滅する光を見つめました。そして、受信者が脳に送られてくる光の信号を頼りにブロックを回転させたところ、高い精度でブロックを積み上げることに成功したと報告されています。
脳を接続しテレパシーのように思考をシェアしてテトリスの3人共同プレイに成功 - GIGAZINE
by gerlos
過去の実験では同じ種の動物同士の脳を接続して情報を伝達できることが示されましたが、異種間で脳を接続した場合に情報伝達が可能なのかどうかは不明でした。そこでノースウェスタン大学やニューヨーク大学の研究チームは、モルモットと人間の聴覚系を使用した実験を行うことにしました。
まず、研究チームはモルモットに特定の単語を聞かせ、聴覚系における重要な脳の部位である下丘で対応する電気信号を記録しました。次に、聴覚障害を持っており聴覚をサポートする器具である人工内耳を装着する被験者に対し、人工内耳を経由してモルモットの脳で記録された電気信号を与えました。
人工内耳は外部にあるマイクが捉えた音声を電気信号に変換し、聴覚をつかさどる感覚器官の蝸牛に接触した電極を通して電気信号を送信する器具です。今回の実験では、この電気信号をモルモットの脳が処理したものに差し替えることで、被験者がモルモットの脳で作られた電気信号をどれほどの精度で知覚できるのかが調査されました。
by Dick Sijtsma
実験では、研究チームが被験者の人工内耳に電気信号を送ってから4つの単語が記されたリストを見せて、「今聞いた音が4つの単語の中のどれに当てはまると思うか?」と質問する試行を繰り返したところ、被験者は34.8%の精度で正しい単語を選択したとのこと。また、2回に分けて送信した特定の電気信号について同じ単語だと判断する割合を調査したところ、53.6%の精度で特定の電気信号を同一の単語だと識別できたそうです。
これらの結果は、いずれもランダムで選択した場合の結果を上回るものであり、言葉を聞いたモルモットが生成した電気信号について、人間の被験者がある程度の精度で識別できることが示されたと研究チームは述べています。なお、被験者が識別しやすかった単語とそうでない単語があったことも指摘されており、bomb(爆弾)・ditch(溝)・sun(太陽)・make(作る)・patch(パッチ)・boat(ボート)・van(バン)といった単語の正答率が50%を超えた一方、merge(併合する)・tough(タフ)・seize(つかむ)・lease(リース)・knife(ナイフ)といった単語は正答率が10%を切ったとのこと。
研究チームは、「動物(モルモット)の聴覚システムでエンコードされた音声信号は、人間の聴覚システムで解読することができます」とコメントし、語彙情報が動物から人間の聴覚系に伝達できる可能性があると主張。今回の研究結果が、人工内耳の改良につながると述べました。
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