映画の「ディレクターズカット」はどういう理由で作り出されているのか?
映画には劇場公開時に上映されたバージョンに加えて、監督の監修のもとで映像を追加もしくは削除した「ディレクターズカット」が公開される場合があります。海外メディアのPolygonが、さまざまな映画のディレクターズカットにおける追加・削除内容と監督の意図を紹介しています。
What a “director’s cut” meant to directors who re-released movies - Polygon
https://www.polygon.com/movies/22324080/movies-with-directors-cuts-meaning
◆「ウォッチメン」
2009年に公開された「ウォッチメン」は1986年に発表された同名のアメリカンコミックが原作の映画で、「300<スリー ハンドレッド>」や「マン・オブ・スティール」で知られるザック・スナイダー監督がメガホンを握りました。
「ウォッチメン」にはオリジナルの「劇場公開版」と「ディレクターズカット」と「アルティメットカット」の3つが存在します。劇場公開の上映時間は162分ですが、ディレクターズカットは186分、アルティメットカットは215分と、膨大な映像が追加されています。
スナイダー監督は2016年のインタビューで「ウォッチメン」の3バージョンでお気に入りを尋ねられ、「私のお気に入りはディレクターズカットでしょう。あなたが熱狂的なファンであるなら、劇中劇の『黒い船』を含むアルティメットカットでしょう。アルティメットカットは純粋に原作コミックの熱狂的なファンのために制作されました。しかし、私にとっては『黒い船』は映画と別に作りたかったものであり、映画の中に挿入することは想定していませんでした。なんとか間に合わせで挿入したものの、完璧なものではありません」と語っています。
◆エイリアン3
1992年に公開された映画「エイリアン3」は、SFホラーの傑作「エイリアン」の3作目。ジェームズ・キャメロン監督作品の「エイリアン2」の続編で、「前作のラストで脱出に成功した3人のうち、主人公のエレン・リプリー以外は事故で死亡する。リプリーは漂着した刑務所で囚人と共にエイリアンと戦う」という内容です。
「エイリアン3」は1992年に公開された劇場公開版と、2003年に公開された完全版が存在します。劇場公開版の上映時間は114分で、完全版の上映時間は144分。囚人たちのキャラクターにスポットライトを当てたシーンが追加されているほか、劇場公開版で「エイリアンが犬から生まれるシーン」が完全版で「牛から生まれるシーン」に差し替えられたり、最後のオチとなるシーンにも大きな改変が加えられました。
監督を務めたのは、「セブン」「ファイトクラブ」で知られるデヴィッド・フィンチャーで、この「エイリアン3」が映画監督としてのデビュー作でした。また、エイリアン3は当初「ニューロマンサー」などのSF小説で知られるウィリアム・ギブスンが脚本を担当しましたが、映画製作会社からの干渉により何度も書き換えられてしまったという経緯があります。
撮影当時、まだ新人でしかなかったフィンチャー監督は脚本に不満があっても、書かれている通りに撮ることしかできませんでした。2003年に公開された完全版はフィンチャー監督が製作時に残したメモに基づいて編集されており、劇場公開版よりも高い評価を受けています。
2020年のインタビューでフィンチャー監督は、「パインウッド・スタジオに2年間通い、多国籍で垂直統合されたメディア複合企業のライブラリタイトルを作るために雇われたという経験から、脚本家や監督がどのように仕事すべきかについて別の見方ができるようになりました」「脚本は卵であり、それを3次元で再生できるもの、2次元で記録できるもの、他人に見せることができるレベルに進めさせる細胞分裂を起こすドナーが必要なのです」と語りました。
◆アマデウス
1984年に公開されたミロス・フォアマン監督による映画「アマデウス」は作曲家のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトとアントニオ・サリエリの因縁を描いた作品で、アカデミー賞の作品賞や監督賞など8部門を受賞しました。1984年公開の劇場公開版(上映時間161分)に、18分49秒の映像や音声をつけたディレクターズカットが2002年に公開されています。
この追加された場面は、フォアマン監督によれば劇場公開時にカットされてしまった部分だとのこと。監督は2002年のインタビューで「クラシック音楽を題材にして、長い名前やかつら、衣装が登場する3時間の映画が興行的に成功するか失敗するかは、わかりませんでした。大手スタジオもこの映画に出資したがりませんでした。そこで、私たちは『観客の忍耐力をそぐようなことはしたくない』と述べ、本筋に関係ないものはすべてカットしました」と語っています。
◆ブレードランナー
フィリップ・K・ディックの小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を原作としたリドリー・スコット監督の映画「ブレードランナー」は数多くのバージョンが存在していることで知られていますが、主に上映時間117分の劇場公開版(1982年)、116分のディレクターズカット(1992年)、117分のファイナルカット(2007年)の3つがあります。
ブレードランナーには劇場公開される前に2種類の試写版が存在します。この2つは観客からの反応があまりよくなかったことから、さまざまなシーンを追加したのが劇場公開版です。以下のムービーは当時の予告編。
Blade Runner (1982) Official Trailer - Ridley Scott, Harrison Ford Movie - YouTube
ディレクターズカットは別名「最終版」で、劇場公開版にあった主人公のリック・デッカード(演:ハリソン・フォード)のナレーションが削除され、スタンリー・キューブリック監督作品の「シャイニング」の空撮映像が流れるエンディングも削除されました。また、デッカードが見る「ユニコーンの夢」の場面がディレクターズカットで一部追加されました。他にも本筋に関わるさまざまなシーンが追加されています。
ファイナルカットは、スコット監督が総指揮を務めた「決定版」として2007年に公開されたバージョンです。「ファイナルカット」と呼ばれていますが、ディレクターズカットである最終版とはまったく別。ファイナルカットにはさらにシーンが追加された上、さらにデジタルリマスタリングによって画質や音声が向上し、映像のデジタル処理も改めて行われました。
スコット監督はIMAXでのファイナルカット上映前に流れた以下の映像で、「ファイナルカットこそ私のお気に入りのバージョンです。オリジナルのネガから完全に復元され、最新の4Kデジタル処理が施され、非常に美しい映像に仕上がりました。また、オリジナルの6トラックを使用した新しいサウンドミックスも、私が監修しました。映画全体にもさまざまな調整と改良を加えています。このファイナルカットが『ブレードランナー』のすべてのバージョンの中で最もお気に入りです」と述べています。
Blade Runner: The Final Cut | Director Ridley Scott - YouTube
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