「初作品を公開してからが本当の仕事の始まり」と語るクリストファー・ノーラン監督の映画論

アメリカ・ユタ州で毎年開催されている「スラムダンス映画祭」は、低予算の自主映画に作品上映の機会を与えるインディペンデント映画祭の1つです。デビュー作をスラムダンス映画祭で上映した経緯を持つクリストファー・ノーラン監督が、2014年のスラムダンス映画祭から創設者賞を授与された際、参加者や観客からの質疑応答に答えており、自身のデビュー作品や映画論について話しています。

Christopher Nolan on internet movie theories, his indie roots, and editing 'Inception' | The Verge
http://www.theverge.com/2014/1/19/5323016/christopher-nolan-on-internet-movie-theories-his-indie-roots-and-editing-inception

ノーラン監督は自身の作品「メメント」に関して「ブラッド・ピットはメメントの脚本を読んで僕に会ってくれましたが、結局それ以上話が進むことはありませんでした。ブラッドも作品に興味を持ってくれましたけど、私は何が無名映画の良さなのか、そこにメメントの面白さが隠されていると思ったんですね。これがガイ・ピアースの目に留まり、主演を引き受けてくれたのだと思います。ピアースは最初からメメントを絶賛してくれました」とキャスティングの裏話を語りました。

By Perfect Boys

兄弟のジョナサン・ノーラン氏と共に脚本を書くことが多いノーラン監督。ジョナサンと一緒にする仕事は、2人でアイデアをぶつけ合って口論を交えながら話し合ったり、時には別々に脚本を書くなど、通常の映画の脚本を執筆するときとは大きく違うそうです。ノーラン監督によると、ジョナサン氏は人気脚本家になってしまったので一緒に仕事をするのは以前より難しくなったとのこと。

次に編集作業について聞かれたノーラン監督は「私は編集の最初から最後まで全てに携わります。撮影したシーンを編集者と共に見て、そこから編集用の下見フィルムを見て検討し、最後に重ね合わせる感じです。インセプションでは睡眠時間を削りながら数週間かけて編集作業を行ったのですが、編集前と編集後を見比べてもあまり違いが見られませんでした。映像のどこが編集された部分なのか見つけることはとても難しかったです。私にとって編集とは、作品を完全に変えて、もう一度作り直す感覚です」と答えています。

By Cheng Shing Yan

ノーラン監督は近年「ダークナイト」や「インセプション」など、スケールの大きな作品を手がけてきました。「今後スケールの小さい低予算映画を作ることはあるのか？」という質問には「大きな予算をかけて映画を作れるという機会は誰にでも訪れるものではありません。私は、自分の前にそのチャンスがある限りつかみ続けます。私が規模の小さい映画を作りたい、と思う事はおそらくないでしょう。けれど、もし小さな規模の映画でしか表現出来ないアイデアを思いついたら、うれしくてまた作るかもしれません。その時はいずれ訪れると思います」と回答。

最後にスラムダンス映画祭に出展した多くのクリエイターに対し「ここにいる人の中にはスラムダンス映画祭でデビュー作を初めて公開した、という人が多くいると思います。途方もない時間を費やして作成した初作品を公開することはとても感慨深いことですが、すぐに次の手を考えなくてはなりません。今日からがとても長く、大変な物語の始まりなんです。初作品の公開を終えた後に、本当の仕事が始まるといっても過言ではありません。私の初作品『フォロウィング』は、さらに高い予算の映画『メメント』を作るチャンスを与えてくれ、また、他人が自分の映画制作に資金を提供してくれることで、私の中に大きな責任感を生んでくれた映画です。フォロウィングの公開後、提供された資金を使って大勢のスタッフや機材を導入できるので、映画制作がもっと簡単になっていくと思っていましたが、大きな間違いだったと今はわかります。今日初作品を公開した全ての監督は、今日からが長い旅路の始まりだと思って下さい」と、初作品の公開がゴールラインではなく、スタートラインであることを強調していました。

なお、ノーラン監督の新作「Interstellar」はアメリカで2014年11月7日、日本では2014年12月12日公開予定となっています。