イヌは飼い主が自分以外と親しくすると「相手の姿が見えない状況」でも嫉妬する
イヌは古くから世界中で人間のパートナーとして愛されている動物であり、人間がイヌに親愛の情を示す一方でイヌも人間の飼い主を思いやる気持ちを持っていることがわかっています。ニュージーランドの研究チームが発表した新たな研究では、「イヌが飼い主に対して親愛の情だけでなく嫉妬の感情も抱く」ということが明らかとなりました。
Dogs Mentally Represent Jealousy-Inducing Social Interactions - Amalia P. M. Bastos, Patrick D. Neilands, Rebecca S. Hassall, Byung C. Lim, Alex H. Taylor, 2021
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0956797620979149
Dogs Act Jealously Even When They Don’t See Their Rival – Association for Psychological Science – APS
https://www.psychologicalscience.org/news/releases/2021-april-dogs-jealous.html
過去の調査ではイヌを飼う人の80%以上が「他のイヌに注意を向けると、イヌが嫉妬してほえたり興奮してリードを引っ張ったりする」と回答しているとのこと。ニュージーランド・オークランド大学の研究チームはこの調査結果をさらに詳しく調べるため、「精巧に作られたイヌのぬいぐるみ」と「フリース素材で覆われた円筒形のオブジェ」を使い、飼い主が自分以外の対象に愛情を示した際のイヌの反応を調査しました。
以下のムービーを見ると、研究チームが行った実験についてよくわかります。
Dogs mentally represent jealousy-inducing social interactions - YouTube
多くの飼い主は「イヌは人間と同じように嫉妬する」と言いますが、科学者がイヌの内面について知っていることは多くありません。
そこで研究チームは、飼い主が「精巧に作られたイヌのぬいぐるみ」をかわいがる様子と……
「フリース素材で覆われた円筒形のオブジェ」をかわいがる様子をイヌに見せ、どのような反応を示すのかを調査する実験を行いました。
イヌは飼い主と同じ部屋にいるものの、リードにつながれているため一定以上の範囲に近寄ることができません。イヌがぬいぐるみやオブジェに嫉妬したかどうかは、リードを引っ張ったり鳴き声を出したりする様子で評価されました。
論文の筆頭著者であるアマリア・バストス氏は、人間の乳児も「母親を取られた」と感じると母親と相手を邪魔するために泣き声を出すと指摘し、嫉妬するような状況に直面したイヌが乳児と同様の行動を示すかどうかに興味を持ったと述べています。
まず最初に、イヌはぬいぐるみと飼い主が親しくしている様子を見せられますが……
次はぬいぐるみを隠すようについたてが置かれ、イヌの視界からぬいぐるみの姿が消されました。
ついたてが置かれた後も、飼い主は視界に外れた部分でぬいぐるみをかわいがるしぐさを続けました。この場合、イヌが嫉妬するのは「ついたての裏で飼い主が相手をかわいがっている」と感じた場合だと考えられます。研究チームは同様の実験をフリース素材のオブジェでも繰り返し、イヌがどのような行動を示したのかを分析しました。
その結果、ぬいぐるみを相手にした時はイヌがリードを引っ張って無理に飼い主の下へ行こうとする様子が観察されました。
一方でオブジェを相手にした時は、ぬいぐるみ相手の時よりはるかに弱い力でリードを引っ張ったそうです。
なお、オブジェを使った実験の際もイヌのぬいぐるみは部屋の隅に置かれていたそうで、「イヌが飼い主との相互作用と関係なくぬいぐるみに攻撃性や関心を持った」という可能性は除外されたとのこと。
合計18頭のイヌで実験を繰り返した研究チームは、飼い主がどこからどう見てもイヌには見えないオブジェではなく、精巧にイヌを模したぬいぐるみに愛情を注いだ場合のみ嫉妬深い行動を示すことを確認しました。また、この行動は飼い主がぬいぐるみと相互作用を示した結果として発生し、ぬいぐるみの存在自体がイヌの行動を引き起こすわけでもありませんでした。
バストス氏は、「これらの結果はイヌが嫉妬深い行動を示すという飼い主の主張を裏付けています」とコメント。イヌの嫉妬行動に関する過去の研究では、飼い主と対象が同じ部屋にいるものの相互作用していないケースについては調べていなかったとのことで、今回の研究結果はイヌの嫉妬行動に関するより正確な情報を与えています。
「人間と他の動物における心の類似性、特に人間以外の動物における感情的経験の本質を理解するためには、まだやるべきことが多くあります。イヌが人間と同じように嫉妬を経験するかどうかを判断するには早すぎますが、嫉妬を誘発する状況が目に見えない場所で発生しても反応することが明らかになりました」とバストス氏は述べました。
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