地震計でゾウの群れの動きを把握する取り組みが進められている
地震計は地震によって発生する揺れを計測する機器であり、気象庁は地震が発生すると各地に設置した地震計からの情報を収集し、発震時刻や震源地の割り出し、マグニチュードの算出などを行います。地震計を用いて検出できるのは地震の揺れだけではないそうで、アフリカでは「地震計を使ってゾウの群れの動きを把握する取り組み」が進められていると、オンラインマガジンのAtlas Obscuraが解説しています。
Can We Track Elephants With Earthquake Detectors? - Atlas Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/elephants-and-seismometers
ノースカロライナ大学チャペルヒル校の地球物理学者であるオリバー・ラム氏は、地震計を使ってゾウの群れの行動を追跡しようと試みている人物です。ラム氏によると、ゾウの個体が群れから離れた後に再会すると、たとえ別れていた期間がほんの一瞬であっても再会を非常に喜ぶとのこと。
ラム氏はグループと再会を果たしたゾウについて、「彼らは飼い主から15分間離れた後に戻ってきた飼い犬のようなものです。再会できたことを非常に喜び、本当に幸せになります」とコメント。こうした時にゾウの足が起こす揺れや鳴き声を地震計で検出することにより、ラム氏はゾウの群れがどのように動いているのかを把握できるのではないかと考えています。
地震計を使って検出できるのは地震だけではなく、原理的に地面を揺らすものであれば何でも記録することができます。既にハリケーンの音や融雪、ミサイルの発射、空を飛ぶ流れ星の爆発など、あらゆる事象を地震計で検出する試みが行われているとのこと。2020年には、新型コロナウイルスのパンデミックで都市封鎖が実施されて人間の活動が減少した結果、地殻レベルの振動が減少したことも明らかになっています。
新型コロナウイルス対策の封鎖措置が「地球の振動」そのものに影響をおよぼしたという報告 - GIGAZINE
近年、一部のゾウ研究者らは地震計を使ってゾウの足音や鳴き声を検出する試みに取り組んでいます。ゾウの鳴き声は110dB(デシベル)にも達するとのことで、ラム氏は「ゾウの鳴き声は非常に大きいです。あなたがゾウに近寄ったことがあるかどうかはわかりませんが、ゾウの鳴き声は本当に全身が震えます」と述べています。大きな鳴き声も地面を揺らすため、原理的に地震計で検出することが可能だとのこと。
地震計を使ってゾウの活動を把握したいと研究者が考える最も大きな理由が、貴重な野生のゾウの保全です。地震計はゾウの群れを邪魔することなく、離れた場所にいながら群れを追跡する有望な方法だとみられています。
研究者は研究や保全のため、ゾウにGPS付きの首輪を取りつけることもあります。しかし、群れから引き離して首輪を取りつける行為がゾウにとって大きなストレスになる可能性があるほか、適切に装着できないと皮膚を傷つける恐れもあるとのこと。一方、地震計はゾウが生息する地域の地面に配置するだけでよく、ゾウへのストレスが少ない追跡手法になり得るそうです。
地震計を使ったゾウの活動の把握は有望ですが、高性能な地震計は1個1万ドル(約110万円)を超えることもあるため、ゾウの保全活動に取り組む団体が採用するには低コストの地震計が使えるかどうかがカギになります。そこでラム氏の研究チームは、1000ドル(約11万円)以下で購入可能な「Raspberry Shake and Boom」という地震計を用いて、ゾウの足音や鳴き声を検出できるかどうか実験しました。
研究チームは南アフリカの「Adventures With Elephants」という3平方キロメートルほどの自然保護区にRaspberry Shake and Boomを設置して、ゾウの追跡を試みました。Raspberry Shake and Boomは電源がある自宅での使用を想定して設計されているため、研究チームは太陽電池式の車用バッテリーと蓄電池を近くに配置し、Raspberry Shake and Boomに電力を供給したとのこと。また、Raspberry Shake and Boomの精度を比較するために、より高性能なデバイスも近くに配置されたそうです。
実験の結果、Raspberry Shake and Boomの検出精度は研究チームが期待していたほど高くはありませんでした。鳴き声や足音を検出できる距離は数百メートル以内であり、距離が離れるにつれて検出精度は急激に下がったとのこと。
この結果は理想的なものではなかったものの、改善を加えれば検出精度を向上させられるかもしれません。たとえば、今回の実験ではRaspberry Shake and Boomを直接地面に置いたため、周囲の土壌によって揺れが消されてしまった可能性があります。そこで研究チームは、一般的な地震計と同様にRaspberry Shake and Boomをコンクリート製の箱に入れて設置することで、より揺れを検出しやすくなるだろうと考えています。
アフリカでは気候変動や人口増加に伴い、野生動物と人間が衝突する事例が増加しています。低コストの地震計を用いたゾウの追跡システムが実用化されれば、ゾウが人々の家や畑に向かっていることをSMSなどで知らせる警報システムを、ゾウの生息域付近にある農村地域に提供できる可能性があるとのこと。早期にゾウが近づいていることがわかれば、「乾燥した糞とトウガラシを混ぜて燃やし、ゾウが苦手な催涙ガスを発生させる」といった非暴力的な方法でゾウの襲撃を避けられます。
地震計を用いたゾウの追跡システムは開発の初期段階ですが、将来的にはGPSやドローン、衛星写真、人による監視と並び、保護活動家が用いる新たなツールキットになるかもしれないと期待されています。また、地震計でゾウの鳴き声を検出・分析することで、ゾウが鳴き声で伝達する情報を解読する手がかりが得られる可能性もあるとのことです。
・関連記事
象が謎の大量死を遂げた事件の真相が解明か、356頭もの象を死に至らしめたものの正体とは? - GIGAZINE
ゾウがガンになりにくい仕組みが科学的に明らかに - GIGAZINE
アフリカゾウの皮膚にある「シワ」はどんな役割を果たすのか? - GIGAZINE
象牙の需要低下によってゾウの密猟が減ってきている - GIGAZINE
仲間が死んで悲しみに暮れるゾウに「大麻の抽出成分」を与えてストレスを和らげる実験が行われる - GIGAZINE
・関連コンテンツ