新型コロナワクチンを比較するのが難しい理由とは?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンにはアメリカの製薬大手ファイザーとバイオテクノロジー企業BioNTech SEが開発した「BNT162b2」や、モデルナが開発した「mRNA-1273」、さらには日本でも医療用品や子ども向けのケア用品などで知られるジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が開発したワクチンなど、さまざまな種類のものが存在します。そんな複数種類が存在するCOVID-19ワクチンを単純比較できない理由について、ニュースメディア・VoxがYouTubeチャンネルで解説しています。
Why you can't compare Covid-19 vaccines - YouTube
2021年2月、J&Jの開発したCOVID-19ワクチンがアメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を受けました。このJ&JのCOVID-19ワクチンは1回接種でOKという点が、これまでFDAの承認を受けてきたワクチンとは異なります。
J&JのCOVID-19ワクチンは2021年3月上旬に6200本がミシガン州デトロイトに出荷される予定でした。
しかし、このワクチンに対して「いらない。モデルナとファイザーのワクチンが最高です。デトロイト市民が最高のワクチンを入手できるように、私はできる限りのことを行う予定です」とデトロイト市長は発言しました。
デトロイト市長がJ&JのCOVID-19ワクチンが最高のものではないと言及したのは、その有効率が他のワクチンよりも低いためです。ファイザーとモデルナのワクチンは、それぞれ有効率が95%と94%と非常に高いのが特徴です。
それに対して、J&JのCOVID-19ワクチンは有効率が66%しかありません。
この数字だけを見ると、デトロイト市長の言う通りJ&JのCOVID-19ワクチンは最高のものでないように思えます。しかし、「その仮定は間違っています」とVoxは断言しています。ワクチンの有効率について、Voxは「間違いなく最も重要な指標ではありません。そして、ワクチンの効果を測る最も重要な指標ですらありません」と言及。なぜ有効率が重要でないかを理解するには、まずワクチンがどのように働くのかを理解する必要があります。
ワクチンの有効率は数万人規模の大規模な臨床試験で算出される数字です。
臨床試験では被験者が2つのグループに分けられます。半分はワクチンを接種し、半分は全く効果のないワクチン(プラセボ)を接種します。
その後、被験者たちは数カ月にわたってCOVID-19に感染したか否かを追跡調査されます。
例えばファイザーワクチンの場合、4万3000人が臨床試験に参加しており……
170人がCOVID-19に感染しました。
そして感染した人がどちらのグループに当てはまるかによって、最終的なワクチンの有効率が算出されます。例えば170人の感染者が均等にワクチン群とプラセボ群に別れた場合、ワクチンを接種してもしなくてもCOVID-19に感染する率は変わらないため、ワクチンの有効率は0%ということになります。
COVID-19に感染した170人が全員プラセボ群である場合、ワクチンを接種した人がひとりもCOVID-19に感染していないということになるため、ワクチンの有効率は100%となります。
ファイザーワクチンの臨床試験の場合、プラセボ群が162人、ワクチン群がわずか8人だったため、ワクチンの有効率は95%となります。これはつまり、COVID-19に感染する可能性が95%低くなったということを意味します。
これは100人にワクチンを接種した場合、5人が感染するという意味ではありません。
「有効率95%」という数字は個人に対して当てはまるものであり、「ワクチンを接種した場合、接種していない場合よりも95%感染の確率が低くなる」ということを意味します。
ワシントン大学に勤めるマイクロバイオロジーの専門家であるデボラ・フュラー氏は、「すべてのワクチンが同じ計算方式で有効率を算出していますが、臨床試験はそれぞれ異なる状況で行われています。そのため、ワクチンの有効率を見る際に最も考慮すべき点は、『臨床試験が行われた時期』です」と語っています。
以下のグラフはアメリカにおけるCOVID-19の新規感染者数をまとめたグラフ。2020年11月から2021年1月にかけて新規感染者数が急増しています。
モデルナワクチンの臨床試験は完全にアメリカ国内のみで行われており、実行時期は2020年8月から11月頭にかけて。
ファイザーワクチンの臨床試験も主にアメリカの被験者を対象に行われており、試験時期は同じく2020年8月から11月にかけて。
一方で、J&Jワクチンの臨床試験は、より新規感染者数が多い2020年11月~2021年1月にかけて行われています。
さらに、J&Jワクチンの臨床試験はアメリカだけでなく、南アフリカやブラジルといった地域でも行われています。
南アフリカやブラジルでは新型コロナウイルスの変異株が猛威を振るっており、通常の新型コロナウイルスではなく変異株が流行しだしたタイミングで臨床試験が行われています。
実際、南アフリカでの臨床試験では、ほとんどの症例が通常の新型コロナウイルスではなく変異株による感染でした。
ジョンズ・ホプキンス大学ヘルス・セキュリティセンターのAmesh Adalja氏は、「ワクチンの効果を正しく比較したいなら、臨床試験を同じ条件、同じ地域で実施する必要があります。もしも、ファイザーとモデルナのワクチンをJ&Jのワクチンと同じ条件で試験したなら、ワクチンの有効率は現在の数値とは全く異なるものとなるでしょう」と語っています。
つまり、ワクチンの有効率は臨床試験で何が起こったかを教えてくれるだけであり、現実世界で何が起こるかを正確に教えてくれる数字ではありません。そのため、多くの専門家が「有効率はワクチンを正しく判断するのに最適な指標ではない」と主張しています。
また、ワクチンの目的は感染を防ぐことではなく、感染症による重篤患者や死亡者の数を減らすことにあります。実際、既存のCOVID-19ワクチンの臨床試験では、プラセボ群では重篤患者や死亡者が出ているのに対して……
ワクチン接種群に重篤患者や死亡者は存在しません。
ワクチンの本当の目的は感染症から人体を保護し、もし感染症にかかったとしても、入院するような重篤な症状とならないようにすることです。そういった観点から見れば、すべてのCOVID-19ワクチンは100%効果を発揮するものとなります。
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