人間が「ミルクを消化できるようになる前」からミルクを摂取していた証拠がアフリカで発見される
世の中には牛乳を飲むとおなかを下してしまう人がいる一方で、毎日のように牛乳を飲んでも何の問題もない人もいます。人間は遺伝子変異によって牛乳を消化できる体質を獲得したことが知られていますが、国際的な研究チームが発表した論文では「人間がミルクを消化できるようになる前からミルクを摂取していた証拠」が、アフリカの人骨から見つかったと報告されました。
Ancient proteins provide evidence of dairy consumption in eastern Africa | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-020-20682-3
Humans were drinking milk before they could digest it | Science | AAAS
https://www.sciencemag.org/news/2021/01/humans-were-drinking-milk-they-could-digest-it
牛乳を飲むとおなかを下してしまうのは、動物のミルクに含まれる乳糖の消化酵素であるラクターゼの活性が、成長と共に失われてしまうことが理由です。人間を含む多くの哺乳類では離乳と共にラクターゼの活性が低下するため、ミルクの乳糖が適切に消化できなくなってしまい、消化不良や下痢といった乳糖不耐症の症状が現れます。
ところが、一部の人間は遺伝子変異によってラクターゼ活性持続症という状態を獲得しており、成体になってもラクターゼの活性を保ち続けているとのこと。ラクターゼ活性持続症の人は成長した後も乳糖を消化することができるため、牛乳を飲んでもおなかを下すことがありません。
人間のラクターゼ活性持続症は後天的に獲得されたものであることがわかっており、遺伝子の突然変異をきっかけとして過去数千年で発達したとのこと。ラクターゼ活性持続症が誕生すると急速に世界中へ拡大し、記事作成時点ではヨーロッパや中東、アフリカを中心としてラクターゼ活性持続症の人が分布しています。ラクターゼ活性持続症の急速な拡大は、乳糖を分解して動物のミルクから栄養を得る能力が大きな利点を持っていたことを示しており、これまでに観察された最も大きな自然淘汰(とうた)の1つだそうです。
人間がラクターゼ活性持続症を獲得した後に動物のミルクを飲むようになったのか、それとも乳糖を分解できない時代からミルクを飲んでいたのかは、牛乳の歴史に関する大きな問題だったとのこと。そこでドイツやスーダン、スイス、オーストラリア、アメリカなどの研究者からなる国際的な研究チームは、アフリカにおけるミルクの消費がいつから行われていたのかを調査しました。
アフリカには数千年前からウシ・ヒツジ・ヤギなどを飼育する牧畜民がいたことから、動物のミルクを飲む習慣が古くから根付いていた可能性があります。研究チームは東アフリカのスーダンとケニアで発見された2000~6000年前の人骨を対象に、硬化した歯石を調査してミルクを摂取していたかどうかを分析したとのこと。
分析の結果、スーダンの2カ所とケニアの3カ所で発見された合計8人の歯石から、動物のミルク特有のタンパク質が発見されました。スーダンで発見された人骨は最も古いもので6000年前、ケニアで発見されたものは4000年前であり、これは乳製品の摂取を示唆する世界全体でも最初期の直接的な証拠だそうです。
今回の研究では、サハラ以南の牧畜民が「ミルクを消化する遺伝子変異を持つ前にミルクを摂取する文化的習慣を持っていた」ことが示唆されており、「酪農やミルクの摂取がヨーロッパで広まった」とする白人中心主義的な考えを覆すものだとのこと。
論文の共著者であるマックス・プランク人類歴史科学研究所のタンパク質専門家・Madeleine Bleasdale氏は、「アフリカ人のコミュニティは、ラクターゼ活性が持続する前からミルクを飲んでいたようです」とコメント。ラクターゼ活性がない時代の人がミルクを摂取する場合、チーズやヨーグルトなどの発酵乳製品に加工して乳糖を分解しやすくする戦略が一般的だったそうで、今回の研究でミルク由来のタンパク質が見つかった人々も、チーズやヨーグルトの形でミルクを摂取していた可能性があります。
乳糖を分解できる人はそうでない人よりもミルクから多くの栄養素を摂取できるため、他の人よりも長生きする傾向があったとみられています。また、動物のミルクから栄養を摂取できる場合、牧畜民が家畜を殺して食肉にしなくても群れを持続させることが可能であり、生存に有利だったかもしれないとのことです。
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