サイエンス

新型コロナウイルスワクチンの基礎技術を開発した研究者の冷遇から分かる研究を取り巻く問題点とは?


ファイザー・BioNTechが開発した新型コロナウイルスワクチン「BNT162b2」やModernaが開発した「mRNA-1273」はタンパク質を合成する情報を持ったmRNAを注入するmRNAワクチンです。このmRNAワクチン開発の礎を築いたカタリン・カリコ氏は大学時代に冷遇されていたことが報じられています。そんなカリコ氏と大学時代に同じ研究室で過ごしたワイルコーネル医科大学助教授のデビッド・スケール氏が学生時代のカリコ氏について語り、研究者を取り巻く社会的な問題点を解説しています。

How Our Brutal Science System Almost Cost Us A Pioneer Of mRNA Vaccines | CommonHealth
https://www.wbur.org/commonhealth/2021/02/12/brutal-science-system-mrna-pioneer

カリコ氏とスケール氏はペンシルベニア大学で同じ研究室に所属していました。当時のカリコ氏は、興味深い研究論文を見つけると、研究室の仲間に熱心に語るような非常に熱意を持った研究者だったとのこと。カリコ氏は2005年に「修飾塩基を使うと免疫反応を抑えられる」ことを発見し、一定の成果を挙げます。しかし、ペンシルベニア大学はカリコ氏の功績を認めないだけでなく、減給処分を下しました。

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スケール氏によると、大学のような研究機関は人文学系の研究者には多くの給与を与えますが、医学関連の研究者には、外部から研究資金を獲得するように求め、給与をあまり多く払わないとのこと。そのため、経済的に弱い若い研究者は「最も情熱を注いでいる研究」ではなく、「最も研究資金を確保しやすい研究」に取り組む傾向にあります。カリコ氏も何度も助成金を申請していましたが、彼女が行っていたRNAに関する研究に資金を提供する企業や研究機関は現れず、最終的にカリコ氏はペンシルベニア大学を去ることになります。

スケール氏は「大学から減給を言い渡されるのは、実験の失敗や、自らの研究が理解されないことへの不満以上のショックを研究者にもたらします。また、研究資金を獲得できないということは、『科学者として十分な能力がない』と言われているのと同じことです」と語りました。


2015年にカリコ氏から連絡を受けたスケール氏は、彼女がBioNTechの研究者として働いていることを知りました。当時のことについてスケール氏は、「カリコが研究者として働いていることを知ってとてもうれしく思いました。彼女はとても研究熱心な研究者でしたから」と語っています。また、カリコ氏の行った基礎研究が新型コロナウイルスワクチンの開発につながったことに関して、「カリコが開発した技術は、科学の歴史の中でも最も壮観な勝利の1つとなりました。mRNAワクチンは多くの人を救うことになりました。私は彼女に畏敬の念を抱いています」と述べ、カリコ氏を称賛しています。

しかし、スケール氏によると、研究者を取り巻く社会的状況は20年前と比べて悪化しているとのこと。スケール氏は「数人による献身的な研究によって、何百万人もの人々を救われることもあります。世界には優れた科学や、優れた研究者が必要であることを新型コロナウイルスワクチンは示しました」と語り、基礎研究に資金を投入することの重要性を指摘しています。

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in サイエンス, Posted by log1o_hf

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