あらゆる科学研究を運命づける「予算配分」には2つのポイントがある
by microgen
映画などのフィクション作品では、科学的な新発見や発明の瞬間がドラマチックに描写されていますが、現実における科学の発展は地道な基礎研究や実証実験のたまものだといえます。しかし、まだ成果や実績をあげていないうちから多額の予算を必要とする科学技術が、一体どんな段階を経て取捨選択されるのかを知らない人も多いはず。そんな中、学術研究の評価に使われている「言葉」に焦点を当てることで、研究の評価と予算配分の関係を明らかにした研究が発表されました。
"Taking leaps of faith: Evaluation criteria and resource commitments fo" by Phillip H. KIM, Reddi KOTHA et al.
https://ink.library.smu.edu.sg/lkcsb_research/6086/
How a leap of faith can take science forward | Office of Research & Tech Transfer
https://research.smu.edu.sg/news/2019/may/10/how-leap-faith-can-take-science-forward
研究の評価に使われる言葉と研究予算の関係を明らかにしたのは、シンガポールマネージメント大学で経営戦略を教えるReddi Kotha教授らの研究グループです。研究グループはまず、大学が研究者らによる研究報告や科学的な発見を評価するために作成している「イノベーション評価報告書」に着目しました。
イノベーション評価報告書とは、アメリカなどを中心とした海外の大学が学内に設置している「技術移転局」が、主にビジネスへの応用の観点から研究の成果を評価するために作成する短いレポートのことです。アメリカでは、大学における学術研究の方針が産業界の動向と密接に関係しているため、このイノベーション評価報告書はしばしば大学の予算配分に大きな影響を与えます。
by Rido81
そこで、研究グループは1998年から2005年までの7年間に作成された合計約700件のイノベーション評価報告書を解析し、報告書の文面や使用される言葉と、実際にその研究が獲得した予算の関係性を分析しました。その結果、予算の増減に直接的な影響を与える評価軸は2つに絞られることが分かりました。それが「実現可能性」と「有用性」です。
研究グループはさらに、2つの評価軸をそれぞれ2つずつ、合計4つのカテゴリに分けて、各カテゴリの評価軸が予算に与える影響を具体的に算出しました。まず「実現可能性」の評価軸は「疑念の余地」と「研究の成熟度」に分かれており、研究の内容について疑念の余地があるものは平均して予算が10%削減され、研究が全体的に未熟だと評価されるものは予算が15%削減されていました。
また、「有用性」は「背景への精通」と「科学的な複雑性」に分かれており、研究者がその研究の必要性や意味についてよく通じていると評価される場合は13%予算が増額され、研究が十分に複雑だと判断される場合は10%予算が増額されていました。研究が複雑なことが評価される理由についてKotha教授は、「シンプルな研究はその分競合する研究があると予想されることから、積極的な投資が控えられる傾向があります」との見解を述べています。
by BrianAJackson
「実現可能性に対する懸念が小さく、有用性が高い研究は予算が多く配分される」という、一見して当然にも思える今回の研究結果ですが、Kotha教授によると「科学分野だけでなくあらゆる新ビジネスのスタートアップやクラウドファンディング、ひいてはハリウッドにおける映画化の企画にも応用できるもの」だとのこと。
というのも、まだ具体的な成果をあげていない研究にどれだけの予算を割くかという問題は、どんな事業に投資するかといったビジネスの世界と共通したものだからです。その上で、Kotha教授は「過去の実績にとらわれたり、ある種の賭けのように予算を分配するのではなく、定量化された評価モデルに基づいた選択を行うことが重要だ」と述べ、経営戦略の専門家としての見地から今回の研究の意義について強調しました。
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