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「新しい発見」が生まれにくいのは研究者の報酬体系に問題があるという主張


科学の世界は日々進歩しており、量子コンピューターに革新を起こす発見など、次世代の技術を支える研究が各地で行われています。しかし、科学分野において、新しい技術を生み出すような革新的な発見に至る研究は年々減少しており、その原因は「研究者の報酬体系」にあると、スタンフォード大学医学教授のジェイ・バタチャリア氏と、ウォータールー大学経済学准教授のミッコ・パッカレン氏が主張しています。

Stagnation and Scientific Incentives
https://www.nber.org/papers/w26752

国ごとの経済成長を表す国内総生産(GDP)は、1980年代では成長率が4%以上で経済政策に成功しているとみなされていました。しかし、2018年においては世界全体でGDPの成長率が鈍化しており、成長率が3%台でも成功に値するとみなされ、先進国の多くが0~2%ほどの成長率となっています。GDPの伸びが世界的に鈍化している原因について、バタチャリア氏らは「新しい技術の開発が進んでいないため」と主張しています。

新しい技術の開発が進まない理由は、「科学分野において技術を発展させたり、革新を起こしたりするような発見が少ないためである」とバチャタリア氏らは述べています。新しい発見の少ない分野ほど、新規性を開拓するために多くの資金や研究努力が必要になるものの、新しい発見は見つかっていないためコストばかりが増加するという悪循環に陥っているというわけ。

例えば薬学の分野では、新薬の開発コストが年々増加し、承認される新薬の数は約9年ごとに半減しています。この規則性はエルームの法則と呼ばれており、薬学の発展における大きな問題となっています。なお、「エルーム」は、ゴードン・ムーアが唱えたムーアの法則の「ムーア(Moore)」を逆さから読んだ「エルーム(Eroom)」に由来しています。


新しい発見が少なくなった原因として、研究者たちが現代の技術で解き明かすことのできる謎が減ったために、新しい発見が難しくなったとも考えられます。しかし、バチャタリア氏らはこの説を否定しており、科学において新しい発見が少なくなった原因は「画期的なアイデアから生まれた研究が報われにくいという事実にある」と述べています。

研究者の多くは研究に対して、新たな発見をするという名誉よりも報酬を重視しています。研究者が得られる報酬の一部は、発表した論文が科学界でどれだけ人気があるかによって左右されており、論文の人気は、論文が引用された回数によって測定されています。


引用による報酬を増やすため、研究者たちは他の研究者に引用してもらえそうな研究を行う傾向が高くなります。そのため、すでに確立されたアイデアを発展させるような研究が中心となり、前例のない目新しい発見をするための研究に対する努力や情熱が減少したのだとバチャタリア氏らは推測しています。

以下のグラフは、2001年に発表された生物医学論文19万1354本の新規性と引用率の関連性を表したグラフです。横軸は引用率を表しており、引用率が低い下位5%から引用率の高い上位5%までを20のグループに分類しています。縦軸は、各グループごとの研究論文における新規性が占める割合の平均を示しています。赤い部分は新規性を持つアイデアが占める割合、灰色の部分は既存のアイデアが占める割合を表しています。


従来のように、研究論文における引用の多さで報酬を決める方法では、Region1で示される範囲内の論文を書いた方が研究者は多くの報酬を得ることができ、引用率が低い論文は、どんな画期的なアイデアを含んでいたとしても、報酬を得ることはできません。


バチャタリア氏らは、引用の多さで研究者の報酬を増やすのではなく、Region2に示される各論文の新規性を評価することによって報酬を決めるべきだと主張しています。また、新規性を多く含んだ影響力の高い論文だけでなく、新規性が少ない論文にも報酬を得る機会を与えることを提案しています。


バチャタリア氏らは「研究者の新しい発見を正当に評価することは、新たな科学的発見のための基盤としての役割を果たすでしょう。もちろん、報酬を原動力とした科学からどのような発展が生まれるかはわかりません。しかし、多くの人々は金銭に引かれるため、科学的な新規性に適切な報酬を与えることで、研究者の行動を変化させ、より探索的な科学に焦点を当てさせることにより、科学を再び活性化させることができると確信しています」と語っています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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