サイエンス

がんから人類を救うかもしれない「がんワクチン」の開発が進んでいる


病原体から作られた抗原を投与することで、感染症に対する免疫を獲得するための医薬品がワクチンです。インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなど、抗生物質の効かないウイルスに効果があるワクチンとは少し異なりますが、実はがんの治療に使われる「がんワクチン」も存在します。そんながんワクチンのうち、皮膚がんの一種である悪性黒色腫(メラノーマ)に対するがんワクチンの研究成果が発表されました。

Personal neoantigen vaccines induce persistent memory T cell responses and epitope spreading in patients with melanoma | Nature Medicine
https://www.nature.com/articles/s41591-020-01206-4


Cancer vaccine helped keep melanoma under control for years in small study | Live Science
https://www.livescience.com/melanoma-vaccine-small-trial.html

がんワクチンは体内にすでに存在するがん細胞を倒す「免疫療法」の1つです。がんワクチンはT細胞と呼ばれる免疫細胞を訓練し、体内の健康な細胞のなかに潜むがん細胞を高い精度で認識して破壊の標的にします。

ダナ・ファーバーがん研究所の研究者であるキャサリン・ウー氏らの研究チームが開発しているのは、メラノーマの細胞に含まれる特定のタンパク質を認識するようにT細胞を訓練することで機能するがんワクチンで、2013年に第I相臨床試験をスタートしていました。

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研究チームはメラノーマの手術を受けた8人の患者を対象に研究中のがんワクチンを接種し、4年間の追跡を行いました。このワクチンは患者自身のがん細胞から得られるRNAから予測される固有のタンパク質を新しい抗原としてT細胞に記憶させるというものです。

8人のうち2人の患者は早期にがんが再発したものの、6人はがんの再発は見られなかったとのこと。定期的に採取した血液サンプルから、がんワクチン接種後少なくとも4年間は、T細胞が標的となるタンパク質を記憶し続けていることが判明しました。さらに研究チームは、がんワクチン接種から時間が経過するにつれて、メラノーマに関連する他のタンパク質も認識するようになったと報告しています。

ウー氏によれば、がんワクチンによって標的タンパク質を記憶したT細胞が、メラノーマのがん細胞を攻撃したあと、その攻撃したがん細胞に含まれる情報を調べるとのこと。T細胞が将来の攻撃に備えてさらに情報を集めていくことで、元のがんワクチンになかった抗原も認識するようになるというわけです。


また、がんが再発した2人の患者は、どちらもがんが肺に転移していたことから、免疫チェックポイント阻害薬が投与されました。すると、がんワクチンと免疫チェックポイント阻害薬の両方を投与されたことで、両方の患者から検出可能ながんが除去されたと研究チームは報告しています。

免疫チェックポイント阻害薬はもともと2011年にメラノーマの治療薬として承認された薬です。私たちの体には、免疫システムが暴走してしまわないように、免疫細胞であるT細胞の増殖や働きを抑制するシステムが備わっています。がん細胞は、この抑制システムを利用してT細胞の動きを抑制する信号を出し、攻撃から免れます。免疫チェックポイント阻害剤は、このT細胞にかかるブレーキを外すことで、がん細胞に対する免疫応答を高めます。

ウー氏と共に研究を主導したダナ・ファーバーがん研究所のパトリック・オット氏は「治療期間初期に完全な反応が見られるのはかなり珍しいことです。2人の患者の事例は、がんワクチンが免疫チェックポイント阻害薬と共に作用して有効性が高まったことを示す兆候です」と述べています。


研究チームは今回の研究について非常に有望な結果だったと評価していますが、被験者がわずか8人であることから、がんワクチンの有効性を示すには至らず、さらに多くの試験を実施する必要があると述べています。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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