自由にソリの滑走コースを作れる「Line Rider」で制作に11年もかかった超大作ムービー「Omniverse II」メイキング秘話
マウスで引いた線がそのままコースとなり、小さな人間がお手製のソリで走ってくれる「Line Rider」には、さまざまな難関コースが作られたり、クラシックの名曲に合わせて滑るムービーが公開されたりと、根強いファンが多く存在します。そんなLine Riderで、アート作品の一環として11年かけて制作した「Omniverse II」というコースを2019年に公開したデヴィッド・ルー氏が、制作の経緯について自身のブログで解説しています。
I Spent 11 Years Working on This Line Rider Track | by David Lu | Medium
https://delu.medium.com/i-spent-11-years-working-on-this-line-rider-track-96742fc0b709
Line Riderが公開されたのは2006年で、Line Riderコミュニティが最も盛り上がっていたのは2007年~2008年頃だったとルー氏は述懐しています。ルー氏が前作「Omniverse(オムニヴァース)」を発表したのも、2007年のこと。Omniverseは、「目に見えない線を使ってLine Riderのソリを自由に動かす」というテクニックとオリジナル楽曲を使って作成されたコースで、コミュニティに「オムニスタイル」という新しい境地を開拓させるきっかけになった作品でした。
Omniverse by Conundrumer [original audio] - YouTube
そして、コミュニティ内で開かれたコンペティションに、ルー氏はOmniverseに続く「Omniverse II」で参加しようとしました。しかし、あまりにもさまざまな試みを導入しようとした結果、締め切りにまったく間に合わず、ルー氏は以下の「Omniverse II beta」というベータ版でコンペティションに参戦することとなりました。
Omniverse II beta - YouTube
しかし、提出した作品はベータ版であったにもかかわらず、コンペティションでなんと優勝してしまったとのこと。それでも納得できなかったルー氏は、Omniverse IIを完成させるべく、自分がこれまで強い興味を抱いたものや好きなものの要素を取り込んだ「Omniverse II 完成版」の制作に打ち込みました。
2010年頃には、Line Riderのコースツールがあまりにも使いづらいために、ルー氏はOmniverse II制作のモチベーションを失ってしまったとのこと。しかし、ルー氏はその間にカーネギーメロン芸術大学美術学院へ進学してプログラミングを学び、PythonでLine Riderの改良版を1から開発し、Line Riderの開発者と連絡を取り、自分が再開発したLine Riderを公式バージョンとして公開するなど、Line Riderそのものを大きく作り替えることに成功しました。
ルー氏が再開発したLine Riderが公式になったことで、Omniverse IIを制作する上で発生する問題の多くが解決され、ルー氏は再びOmniverse IIの制作に専念するようになったそうです。また、ルー氏が大学で学んだ芸術論や世界中を旅行して得た知見も、作品に大きく影響を与えたとのこと。
ルー氏が本格的にOmniverse IIの制作を再開した2017年頃には、Line Riderのコミュニティはかなり縮小してしまっていたとのこと。それでもルー氏は残ったコミュニティのメンバーと連携を取りながら制作を続け、制作開始から11年が経過した2019年に、ついに「Omniverse II」の完成版を公開しました。
Line Rider - Omniverse II - YouTube
ソリは黒い窓から滑り出します。
最初は、球体や曲面をワイヤーフレームで再現したようなコース。この部分はOmniverse IIを作り始めた当初からコース案にあり、20年前に子ども時代のルー氏がノートに書き残していた落書きや、ブラックホールが重力場に作る穴に触発されているそうです。
多面体の中を滑っていくソリ。この多面体はウォーターマンの多面体と呼ばれ、ルー氏が手書きでトレースしたものだとのこと。
四面体の群れの中をくぐり抜け……
ソリは入り組んだコースの上を滑っていきます。
やがてコースから猛スピードで投げ出されると……
カメラがぐっと引き、Omniverse IIの世界の一部が見えました。ぐにゃぐにゃの座標平面上には「YOU MUST ESCAPE(必ず脱出しなければならない)」と書かれています。このメッセージは、ルー氏の友人が寝室の壁に描いたものだとのこと。
そして、落ちたソリが再び滑り出したのは直線で構成された世界。この世界は電子回路をイメージしているそうです。
直線で構成された世界は、やがて曲線だらけになり、崩れていきます。「直線で構成された世界の中に突然現れるゆがみ」という表現は、2001年にゲームボーイアドバンス専用タイトルとして発売されたRPG「バトルネットワーク ロックマンエグゼ2」から影響を受けているとのこと。
曲面で作られたコースは何度もループしないと抜け出せない構造になっています。
そしてソリがまた上に向かって滑り出すと同時にカメラがぐっと引き……
絡まり合うテープの隙間を縫うようにソリが登っていき……
Omniverse IIの全体像が見えます。左側には前作のOmniverseがありました。
ソリはDNAのような二重らせんを登っていきます。
二重らせんのリボンはやがて立方体と四面体に変わり……
やがて線が増えて世界が狭くなっていきます。映像ではコースがぐりぐりと動いていますが、実際はコースが動いているのではなく、高速でソリが上がると同時にアニメーションの原理でコースが動いているように見えているそうです。
完全に世界が閉じてしまったところで、「OMNIVERSE II」と表示され、スタッフロールが始まります。スタッフロールが終わると、ルー氏が2006年の頃から作品に入れたかったという「当時流行したインターネットミーム」が登場します。どんな結末になるのか、気になる人はぜひ自分の目で確かめてみてください。
・関連記事
引いた線がそのまま滑走コースになる「Line Rider」 - GIGAZINE
LineRiderにさらなる超絶技巧コースが登場 - GIGAZINE
ついに「LineRider」に想像を絶する究極のコースが登場 - GIGAZINE
チャイコフスキーの「金平糖の精の踊り」と転げ落ちる3台のソリが完全にシンクロするムービー - GIGAZINE
グリーグ作曲「山の魔王の宮殿にて」に合わせて作ったLine Rider作品のシンクロ率が異常で見事すぎ - GIGAZINE
・関連コンテンツ