アスリートが到達する無我の境地「ゾーン」に入る2つの方法とは?
スポーツやeスポーツ、音楽などに没頭している人は、しばしば時間が止まったように感じるほどの極端な集中状態を経験することがあります。「ゾーン」や「無我の境地」と呼ばれるこの状態に入る方法について、オーストラリア・サザンクロス大学の心理学者が解説しています。
Let it happen or make it happen? There's more than one way to get in the zone
https://theconversation.com/let-it-happen-or-make-it-happen-theres-more-than-one-way-to-get-in-the-zone-149173
◆2種類の「ゾーン」
スポーツ科学や心理学の分野では、これまで「ゾーン」に関する研究が複数行われてきましたが、こうした研究では「ゾーンには1種類しかない」ということを前提にしてきました。これは、スポーツ選手などが功績を挙げてから数カ月、あるいは数年が経過した後に行われたインタビューに基づいているため、細かいゾーンの違いについての記憶が風化してしまったことが原因です。
そこで、サザンクロス大学で心理学を研究しているクリスチャン・スワン氏とスコット・ゴダード氏らの研究チームは、並外れたパフォーマンスを示してから数時間から数日以内のアスリートにインタビューを実施しました。
その結果、「ゾーンには『フロー』と『クラッチ』の2種類が存在する」ということが分かったとのこと。スワン氏らは、2種類のゾーンの違いを「アスリートの証言では、フローは余裕で『実現させる(Letting it Happen)』と表現され、クラッチはここ一番という瞬間に意図的にギアを上げて『実現する(Making it Happen)』と形容されます」と説明しています。
◆ゾーン1:クラッチ
スワン氏らによると、クラッチはプレッシャーが極限に達する特定の状況下で、重要な成果が目前に迫っている時に発生するとのこと。例えば、自己ベスト更新がかかっているレース終盤や、最終バスに乗るためのダッシュ、締め切り目前の追い込みなどがクラッチに当たります。
このクラッチに突入するには、目標を達成できるかどうかの瀬戸際に直面していることに気づき、何が必要かを悟り、発揮する力のレベルを意図的に上げることが必要になります。これをマラソンに例えると、レース中に「自己ベストを更新するには、最後の1kmを5分で走らなければならない」とスパートをかけるようなものだとのこと。
「バスケットボールの神様」ことマイケル・ジョーダンが1989年5月7日のプレーで放った、伝説的なシュート「The Shot」も、クラッチの状態で発揮されたパフォーマンスだと言われています。
◆ゾーン2:フロー
プレッシャーの中で到達するクラッチとは逆に、プレッシャーから解放された状態で高いパフォーマンスを発揮するのがフローです。フローのポイントになるのは、目新しさや探求、実験といった状況とのこと。例えば、初めて使うゴルフコースでのプレーや、新しいルートでのランニングなどがこれにあたります。
フローのために必要なのは具体的な目標ではなく、「どこまでやれるか」「どれだけ得点を得られるか」「どれだけ速く走れるか」といったオープンな目標です。このように、制限を受けない目標を持ってプレーに臨むと、プレッシャーや不必要な期待から解き放たれるとともに余裕と自信が身に付いて、フローに入りやすくなります。
アスリートの中には、1回のプレーで2種類のゾーンの両方を経験する人もいるとのこと。例えば、2020年ロンドンマラソンを制したシュラ・キタタ選手は、レースの序盤から中盤にかけてはフロー状態で走り、自己ベスト更新が目前に迫った終盤でクラッチ状態になったとされています。
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