サイエンス

「人に触ること」がタブー視されると何が起こるのか?


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で人との接触が制限され、またMeToo運動により多くの人が「他人に触れること」に対して慎重になってきています。これらの状況から近年は「他人に触れること」がタブー視される傾向になってきていると、認知神経科学者のローラ・クルシアネッリ氏は指摘しています。「触れること」がなくなると人の体にどのような影響があるのか、人との接触が制限されるなかでこの問題を解決するにはどうすればいいのかを、クルシアネッリ氏が論じています。

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「人に触れること」が制限される状況が続きますが、「人に触れること」には多くの利点もあると、過去の科学的研究から明らかになっています。たとえば誰かをハグすることでストレスが軽減されたり、互いの信頼度が上がったりします。

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皮膚に触れることは、心拍や血圧、ストレスホルモンであるコルチゾールのレベルを下げ、落ち着きやリラックスをもたらし、愛情ホルモンとして知られるオキシトシンの分泌を促します。

1990年代にはルーマニアの児童養護施設で、生まれてからの数年間ほとんど人に触れられることのなかった子どもたちがその後どう発育したかという研究結果が発表されました。このような子どもたちはその後、認知や行動に問題が生じ、脳の発達も通常とは異なったと報告されています。また社会的関係が少ない人は多い人に比べて早死にのリスクが高いことも研究で示されており、触れることが人の健康にいい影響を与えることは明らかです。

加えて、自分の体の感覚がゆがむ神経性食思不振症の患者は、健康な人に比べて「前腕を柔らかいブラシでゆったりなでること」に対して不快感を強く示すことも報告されています。これらから「社会的接触」と「メンタルヘルス」の間に密接な関連があるとも考えられています。

この点、クルシアネッリ氏の研究室では、愛情ホルモンであるオキシトシンが「感覚の接着剤」であることが実験で示されたとのこと。クルシアネッリ氏らは(PDFファイル)ラバーハンドイリュージョンという実験を被験者に対して行いました。ラバーハンドイリュージョンでは、被験者は自分自身の手を見えないところに隠し、生きている人の手を模した「ゴムの手」がなでられる様子を観察します。ゴムの手がなでられることにより、人は自分の手がなでられているような感覚を得ることがこれまでの研究で示されていますが、新たな実験では、オキシトシンを投与された被験者は「なでられている感覚が増す」ことが示されました。この研究結果から、オキシトシンが「人が自分の体を自分のものと思う感覚」を増加させると研究者は結論付けました。


「触覚」は人が発達させる最初の感覚です。人は運動系を発達させていない、自分の体温を調節することも、自分を守ることも難しい状態で生まれます。生き残るためには「人に世話をされること」が必須である状態で生まれるため、世話をされるためには「接触されていること」「抱かれていること」という感覚に依存せざるを得ません。

このため、人は乳児の段階で「物に触れるような触り方」と「社会的・感情的な触り方」を異なるものとして認識することが可能とのこと。生後4カ月の乳児は、親に優しくなでられたとき、人の顔を学習しやすくなることが実験で示されており、研究者は「愛撫されることは、『人の顔』のような社会的刺激に対して注意を払うことのきっかけになる」と考えています。また、生後12カ月の赤ん坊は「母親の触り方」で「遊び時間」なのか「読書時間なのか」などを識別しており、触ることが言語のように機能していることも確認されています


これらの研究結果から、クルシアネッリ氏は、「人に触れること」がタブー視されることで、人のメンタルや健康に大きな影響があるとみています。同様の考えを持つ研究者も多く、人との接触を促進するために、パンデミックにおいて新しい接触方法を編み出す人も。また、パンデミックの発生以前から、キスを転送して遠くにいる人とリアルタイムで感触を送受信できるデバイスや、温かさや柔らかさを遠隔から人に伝えるセンサーが、人との接触が制限される状況においても接触の替わりになるとして研究されています。一方で、孤独感をやわらげるにはネットでなくリアルで顔と顔をつきあわせる必要と考えられており、これらの技術はあくまで補完的なものであることをクルシアネッリ氏は強調しています。

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in サイエンス, Posted by logq_fa

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