製薬会社が「競合他社を妨害」するため不当に薬を値上げしていたことが判明
製薬会社のセルジーンとテバ・ファーマシューティカル・インダストリーズ(Teva)が、多発性骨髄腫治療薬「レブリミド」と多発性硬化症治療剤「コパキソン」の価格引き上げを不当に繰り返し行っていたことが、アメリカの下院監視委員会の約18カ月にわたる調査によって報告されました。
Investigation shows Celgene, Teva plotted to keep drug prices high
https://www.statnews.com/2020/09/30/investigation-celgene-teva-drug-prices/
下院監視委員会が発表した報告書によると、両社が行った薬の価格引き上げは主に「売上目標の達成」と「競合他社の妨害」を目的としたものだったとのこと。
報告書には、2014年3月、当時セルジーンの上級副社長だったマーク・アレス最高経営責任者(CEO)は、第1四半期の売上目標を達成できなかったことから「レブリミドの価格を4%値上げする」と社員に通達したことが記されています。諮問委員会に提出された資料によると、この値上げにより、通算で約2400万ドル(約25億円)の利益が生まれました
また、セルジーンの幹部たちはレブリミドの価格が高いために、競合他社が新しい治療法の研究やジェネリック医薬品の開発ができないことを自慢げに周囲に語っていたとのこと。セルジーンの内部資料には、ある幹部が「競合他社の発展を妨げるために私たちができることは何でもする」と述べていた証拠が残されていました。
報告書ではセルジーンとTevaの両社とも、薬の価格引き上げによる収益の増加を薬の改良といった分野に投資していなかったことが指摘されています。この件に関してはTevaの方が悪質だったようで、報告書によるとTevaは1987年以来、コパキソン関連の研究に6億8900万ドル(約727億円)を費やしていますが、これはコパキソンによって得られた純利益である約340億ドル(約3兆5921億円)のうち2%ほどでした。
しかも、Tevaはコパキソンを値上げする一方で、Teva社員がなんらかの事情でコパキソンを市場で購入できなかった場合、無料でコパキソンを社員に提供していたことも報告されています。
また、Tevaはコパキソンだけでなく、同社が販売する複数のジェネリック医薬品についても不当な値上げの談合を行っていたことが指摘されています。Tevaは大手のジェネリック医薬品メーカーで、売上の約55%をジェネリック医薬品が占めています。Tevaはコアビジネスであるジェネリック医薬品事業に他社が参入しないよう障壁を作るため、不当な値上げを行っていました。その証拠に、Tevaの社内資料には「ジェネリック医薬品を値上げする資料から『一般参入障壁』という文言を削除すること」を指示する内容が含まれていたそうです。
医療ビジネス系ニュースメディアのSTATは「2社の不正を指摘した報告書をきっかけに、薬品における価格制度の改革が行われる可能性が高い」と指摘しました。STATによると、2020年11月の大統領選挙を前に、薬の価格制度の見直しは注目を集める公約の1つとなっているとのこと。カイザーファミリー財団による世論調査では、有権者はドナルド・トランプ大統領がジョー・バイデン氏よりも薬品の価格改正に真剣であると認識していることが報告されています。
なお、アメリカ民主党のキャロリン・マローニー氏は、「大統領選挙が近づくにつれ、トランプ大統領は過去4年間取り組んでこなかった問題に取り組んでいるかのような印象を作り出そうと躍起になっている」と主張しています。
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