銀行が何もないところからお金を作り出せる仕組みとは?
「お金」と聞いて思い浮かべる紙幣や硬貨は国の中央銀行が発行していますが、民間の銀行でもお金は生み出されています。印刷機でお金を刷っているわけでもない銀行で一体どうやってお金が生み出されるのかについて、エンジニアのアッテ・ジュヴォネン氏が分かりやすく解説しています。
Atte Juvonen - Banks create money out of thin air, but it's less impressive than it sounds
https://www.attejuvonen.fi/money-out-of-thin-air/
銀行の大きな役割の1つが、預金業務です。これについてジュヴォネン氏は「銀行預金の正体は、ただの借用証書(IOU)にすぎません」と説明しています。例えば、ある人が銀行に100ドル(約1万500円)を預けたとします。その結果、預けた人が持っていたお金は手元からなくなってしまいますが、代わりにその人はいつでも銀行から100ドルを返してもらうことができます。つまり、銀行に100ドル預金するということは、銀行が発行した100ドル分のIOUを受け取るということを意味しています。
仮に、この銀行の取引が100ドルの預金だけだった場合、銀行の貸借対照表は以下のようになります。左は「資産」の項目で、ここに現金として100ドルが記載されます。そして、右の「負債」の項目には、預金の100ドルが記載されます。ここでの負債とは、銀行から預金者への借金という意味です。
銀行には預金業務の他に、融資を行うという役割もあります。ジュヴォネン氏によると、この融資も「IOUの交換にすぎない」とのこと。例えば、アッテさんという人が「銀行から10ドル(約1050円)借りて、後で利子含めた11ドル(約1150円)を返す」というローンを組むと、以下のように銀行とアッテさんの間で10ドルと11ドルのIOUが交換されます。
ローンを組んだ後の銀行の貸借対照表が以下。資産と負債の項目に、アッテさんが返す予定の11ドルとアッテさんに貸した10ドルがそれぞれ記入されました。この時、銀行の負債の合計は110ドルですが、銀行の金庫には100ドルしかありません。この差が、「銀行が何もないところから生み出したお金」というわけです。
この仕組みは、ドイツの経済学者であるリチャード・ヴェルナー氏が2014年に発表した論文の中で「マネーサプライは、まるで『おとぎ話に出てくる妖精が作った魔法の粉』のように、銀行が何もないところから作り出すものです」と説明されています。
一方、ヴェルナー氏は「何もないところからお金を作り出せるのは銀行だけ」とも述べていますが、ジュヴォネン氏はこれについて「明らかな誤りです」と主張しています。というのも、確かに上記の方法で合法的にお金を作り出せるのは銀行だけですが、それは法律で規定されているからであって、銀行だけが特別にお金を生み出す能力を持っているわけではないためです。
例えば、2004年6月にオープンした世界的なオンラインポーカーサービスであるFull Tilt Pokerには、賭け金をやりとりできる決済システムが存在しており、銀行よりも素早くお金のやりとりができたので、プレーヤーたちは映画チケットの譲渡など、ポーカー以外の場面でもFull Tilt Pokerの決済システムを活用していたとのこと。
Full Tilt Pokerは政府から認められた銀行ではなかったため、Full Tilt Pokerの運営者は2011年4月に賭博法違反などの容疑で逮捕されてしまいましたが、実際にFull Tilt Pokerが銀行のように利用されていたことから、ジュヴォネン氏は「Full Tilt Pokerは銀行ではない企業がIOUを作った例です」と述べています。
こうした点から、ジュヴォネン氏は「銀行預金やローンは単なるIOUの発行と交換でしかありません。そして、銀行は何もないところからお金を生み出せますが、そのお金の正体であるIOUは誰にでも作れるので、銀行に特別な力があるわけではありません」と結論付けています。
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