メモ

スイスでは法律や制度を決めるために「国民投票」が積極的に行われている


スイス連邦は中央ヨーロッパに位置する連邦共和制の国家で、永世中立国であることで知られています。そんなスイスは連邦議会を最高機関とする議会統治制をとっていますが、「国民の政治参加」として国民発議と国民投票という直接民主制が憲法で認められています。スイスにおける国民投票について、エンジニアのMartin Sústrik氏が解説しています。

Swiss Political System: More than You ever Wanted to Know (I.) 250bpm
http://250bpm.com/blog:161/


現代のスイス連邦は19世紀半ばに、連邦憲法の制定と共に始まった代表民主制に基づいた連邦国家で、各州の代表議員によって構成される二院制を採用しているという点ではアメリカと同じような代表民主制の国家といえます。

しかしスイスでは、憲法の変更、税金についての取り決め、国際機関への参加は国民と州によって承認される必要があります。また、議会によって制定された法律は国民投票によって異議を申し立てられ、拒否される可能性があります。また、任意のトピックに関する国民投票を行う制度があり、指定された時間内に指定された量の署名を収集できた場合、国民投票が行われ、多数決によって承認されます。


Sústrik氏によれば、2000年に18歳になったチューリッヒ出身の37歳が経験した国民投票は548回。そのうち181回は連邦政府レベル、176回は州政府レベル、191回は自治体レベルだとのこと。平均投票率は45%で、これは37歳のスイス国民が平均して246回の国民投票に参加したということを表します。

以下は、これまでに行われてきた国民投票の一部です。


・チューリッヒやジュネーブなど、家賃の高騰が問題となっている大都市部で、新築物件の少なくとも10%を公益団体の所有とし、非営利で低家賃の住宅を用意するイニシアチブ。賛成率は46.5%で否決されました。

・人種/宗教/年齢/所属政党を理由とする差別の禁止に、「性的指向を理由とする差別の禁止」を加えるというイニシアチブ。国民投票の結果、63.52%が賛成し、制定されました。

・所得格差を減らすために、全体の0.69%にあたる最高所得者層の税負担を増やすというもの。反対派は、富豪がスイスから転居してしまうことで税収が最終的に減少してしまうと訴え、国民投票が行われました。結果は賛成が42.04%だったため、このイニシアチブは否決されました。


・「スイス憲法は国際条約よりも優先されるべき」というイニシアチブ。賛成は36.3%で、否決されました。

・牛飼いのアーミン・キャポール氏から提出された「牛の角を切り取らない牛飼いに対して助成金を出す」というイニシアチブ。賛成は45.3%だったため、否決されました。

・「べーシックインカムを導入し、収入額と資金調達については法律で制定する」というイニシアチブが国民数人によって提案されました。賛成は23.1%で、否決されました。

働かなくても毎月約30万円もらえるベーシックインカム制度の導入を決める国民投票がスタート、その結果は? - GIGAZINE


スイスでは、国民投票は憲法で保障されています。そして、その憲法を改正する際にも国民投票によって承認される必要があります。また、国際機関に参加する際も政府の一存で決定されることはなく、必ず国民投票が行われます。実際に1992年にヨーロッパ経済領域(EEA)への参加が検討された時は国民投票で否決されました。また、スイスのジュネーブ市に本部を構える国際連合への参加は、国民投票によって2002年にようやく決定されました。

Sústrik氏は「スイスでは政治的話題が本質的に両極化しない」と述べています。たとえば2013年に、感染症の流行時に政府にワクチン接種や感染予防に関する特別権限を付与する法案について国民投票が行われ、否決されました。しかし、反対票は決して反ワクチンという意味ではなく、あくまでも現状を維持するという意味だとSústrik氏は主張しました。

スイスの国民投票でも大きな特徴が、国民が署名を集めて提案したイニシアチブについて国民投票が行われるという制度です。この国民投票は19世紀から現代に至るまで幾度と行われていますが以下のグラフを見るとわかるように、特に1970年代以降に回数が急増しています。なお、青い線が国民投票の回数で、赤が賛成の多数決を得て制定されたものの数です。


当初はイニシアチブが提案され、署名を集めて提出されても、その内容が政治的意義を失うまで放置されることも多かったとのこと。しかし、20世紀に入ってマスコミによってこの問題が激しく批判されるようになってから、積極的に国民投票が行われるようになったことが、1970年代以降に国民投票の回数が増えた理由の1つだとSústrik氏は指摘しています。

また、国民投票が行われる場合にはメディアが積極的に取り上げ、路面電車の停留所などでもイニシアチブについての資料が無料で配布されます。また、スイス国民は食事中でも同僚や家族、パブでの飲み仲間と積極的に政治について話す習慣があり、「政治的テーマについて自分の意見を表明するべき」と考えている人が非常に多いのも、スイスで国民投票が機能する理由であるとSústrik氏は述べています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「イギリスがEUから離脱すべきか否か」の国民投票の結果、離脱派が勝利 - GIGAZINE

なぜペンギンにとってイギリスのEU脱退が大きな痛手となるのか? - GIGAZINE

働かなくても毎月約30万円もらえるベーシックインカム制度の導入を決める国民投票がスタート、その結果は? - GIGAZINE

SNSを巧みに操りイギリスをEU離脱へと導いた知られざる選挙戦略の裏側を描く映画「Brexit」公式予告編第1弾公開 - GIGAZINE

働かなくても最低限のお金がもらえるベーシックインカムは「アメリカでは失敗する」とベンチャーキャピタルの社長が語る - GIGAZINE

in メモ, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article here.