新たな盗聴の手段として「電球の振動」から音声を復元する技術が報告される
ターゲットがいる部屋の中にカメラや盗聴器を設置することなく、遠く離れた位置から電球の振動を測定することで、部屋内の会話や音を盗聴できるシステム「Lamphone」がネゲヴ・ベン=グリオン大学のセキュリティ研究者であるベン・ナッシ氏らの研究チームによって報告されています。
Lamphone
https://www.nassiben.com/lamphone
Spies Can Eavesdrop by Watching a Light Bulb's Vibrations | WIRED
https://www.wired.com/story/lamphone-light-bulb-vibration-spying/
Lamphoneは、ノートPC・望遠鏡・センサーを使って数十メートル離れた場所の音をリアルタイムで聞くことが可能なシステムで、設備に掛かるコストは1000ドル(約10万円)ほどです。電球のガラス表面で発生した小さな振動から音を復元でき、「室内の機器をハッキングしたり、機材を設置したりする必要なく、電球の位置を特定するだけで室内のあらゆる音を取り出せます」とナッシ氏は述べています。
ナッシ氏らが行った実験では、電球をつるした部屋から約25メートル離れた場所に望遠鏡を設置し、望遠鏡の接眼レンズに電球の振動を捉えるセンサーとなるフォトディテクタ、PDA100A2を取り付けました。部屋の中で音楽をかけたり音声を再生したりすると、センサーが電球から振動の値を取得し、リアルタイムでPC上に復元された音声が出力されます。今回使用されたセンサーは、電球の数百ミクロンの振動も検出可能とのこと。
以下の画像が実際に実験が行われた場所で、電球をつるした部屋(Victim's room)から25メートル離れた歩道橋の一角に望遠鏡を設置(Eavesdropper)しています。
部屋内で再生した「We will make america great again」という音声を電球の振動から復元した音声は、以下のムービーで3分20秒頃から確認できます。
Lamphone: Real-Time Passive Sound Recovery from Light Bulb Vibrations - YouTube
また、部屋内で流したビートルズの「Let it be」を復元した音声などを以下のサイトから試聴できます。
Lamphone
https://www.nassiben.com/lamphone
ナッシ氏らの報告によると、音声を復元できたのはつり下げ式の電球のみで、天井や壁に固定された電球から音声が復元できるかどうかは未検証とのこと。また、実験で音声や音楽を再生した際のスピーカー音量は最大であったため、小声での会話を電球の振動から検出できるかどうかは明らかになっていません。ナッシ氏らの研究チームは、今回の実験では比較的安価な機材を使用したため、より細かな振動を検出できる高価な機材を使用すれば小さな声の会話も電球の振動から復元できる可能性があると主張しています。
スタンフォード大学の電気工学および暗号学教授のダン・ボネ氏は、ナッシ氏の研究は実用性のあるサイドチャネル攻撃に応用できる技術であると指摘。ボネ氏は「つり下げ式の電球と大音量の音が必要だとしても、電球の振動による音声の復元が可能であることが示されたのは初めてのことです。将来的にこの手法は徐々に改良されていくでしょう」とコメントしています。
ナッシ氏は、「Lamphoneはスパイ活動においてかなり実用的に使用することができます」と明言しています。スパイ活動に有用であることを踏まえた上で研究を公表した理由は、「スパイや法執行機関を有利にするためではなく、監視する側とされる側の双方に、どんな技術が使用可能なのかを明らかにするため」とナッシ氏は述べており、「私たちは、盗聴のツールを提供するゲームには参加していません。あらゆる種類の攻撃を知り、攻撃に対する意識を高めるべきです」とコメントしています。
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