肉を食べる人は菜食主義者よりも精神的に健康だという研究結果
近年では「動物の命を人間のために奪うべきではない」といった思想や、「肉を食べることは健康に悪い」といった考えから、宗教以外の理由で菜食主義を選択する人々が増えています。そんな中、アメリカのチームが行った研究では、「菜食主義者は肉を食べる人と比較して、精神的な問題を抱えている可能性が高い」という結果が明らかとなりました。
Full article: Meat and mental health: a systematic review of meat abstention and depression, anxiety, and related phenomena
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10408398.2020.1741505
New psychology research finds meat eaters tend to have better mental health than vegetarians
https://www.psypost.org/2020/05/meat-eaters-tend-to-have-better-psychological-health-than-vegetarians-56698
論文の著者である南インディアナ大学のUrska Dobersek准教授は、「古代から食事の選択は社会的階層や配偶者の選択における強い指標となってきました。結果として、『私たちが食べるもの』および『どのように食べるのか』は、私たちのアイデンティティに不可欠な要素となり、生理学的・社会的・心理学的経路を通じて私たちの健康に直接影響します」と指摘。そのため、肉を食べることとメンタルヘルスに関する体系的なレビューが必要だと考えたそうです。
研究チームは、以前に実施された18件もの「肉の消費と心理的健康に関する研究」について調査を実施しました。Dobersek氏らは心理的健康に着目する上で、うつ病・不安・自傷行為・自覚しているストレス・生活の質といった要素に絞り込んで、1997年~2019年に発表された過去の研究を調査したとのこと。
18件の研究はそれぞれ調査の厳密さやバイアスに違いがあったそうですが、合計で14万9559人の「肉を食べる人」および8584人の「菜食主義者」という膨大な被験者を含んでおり、研究が行われた地域はヨーロッパ・北アメリカ・アジア・オセアニアといった広範囲にわたっていました。「菜食主義者」という言葉は人によって使い方がまちまちですが、研究チームは明確に「全く肉を食べない人」を菜食主義者として定義した過去の研究を抽出し、分析を実施しました。
18件の研究のうち、うつ病や不安に関連する症状について調査されていたのは14件でした。14件中7件の研究では「肉の消費を避けている人の方が、うつ病や不安などのリスクが高い」と示されており、2件は逆に「肉を食べる人の方がうつ病や不安のリスクが高い」と示されていたとのこと。残りの研究ではそれぞれに有意な差がないか、混合した結果が示されていました。
また、自傷行為について調査された3件の研究では、いずれも「肉を食べる人より菜食主義者の方が自傷行為をする割合が高い」という結果でした。このうち、オーストラリアに住む9113人の女性を対象に実施された研究では、「自傷する人の割合は菜食主義者の方が3倍も高い」との結果が示され、アメリカの4746人の青少年を対象にした研究でも、「自殺未遂を行った割合は菜食主義者の方が2倍以上も高い」という結果になりました。
その一方で、ストレスに着目した4件の研究や生活の質に着目した2件の研究では、肉を食べる人と菜食主義者の間で有意な差は見られなかったとのこと。「肉食を回避することと精神的な問題の増加が集団内で一貫して関連している点に、私と共著者たちは本当に驚きました」と、Dobersek准教授は述べています。
しかし、一連の結果だけでは、肉を避けることと精神的な問題の因果関係を特定することはできません。今回調査された18件の研究のうち、16件はある時点における集団の状態を評価する横断研究であり、集団を一定期間にわたって調査した縦断研究は1件に過ぎず、もう1件はランダム化比較試験を行った研究でした。ランダム化比較試験では菜食主義者が肉や魚を食べた人と比較して気分がいいと報告しましたが、縦断研究では菜食主義がうつ病や不安の予測因子であることが示されたとのこと。
「相関関係は因果関係を示すものではなく、私たちは今回の結果についていくつかの説明を付けることができます。たとえば、『精神疾患に苦しんでいる人は自己治療の一種として食事内容を変えることがある』『厳格な菜食主義者の食事は、栄養素の欠乏を引き起こして精神疾患のリスクを増加させる』『摂食障害を抱えている人は、自身の障害を隠すために菜食主義を利用している』『動物の苦痛に対して非常に敏感だったり動物の苦しみに注目していたりする人は、うつ病や不安の両方を抱えやすい』といった可能性があります」と、Dobersek准教授は指摘。
世の中には多くの菜食主義や栄養に関する研究結果がありますが、一般的な個人は1つの研究結果を歴史的、科学的知識に関するより多くの文献の中に位置づけるための知識や経験が不足しているとのこと。Dobersek准教授は、この問題が世間に「ダイエット戦争」を引き起こし、「栄養に関する間違った真実」が至る所に登場する原因になっていると主張しました。
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