英語の「t」の発音が若者の間で変化しているという報告、いったいどのように変わっているのか?
中学や高校の英語の授業で、日本とはまったく違う英語の発音にうまくなじめなかった人もいるはず。そんな英語の発音について、「ここ15年で、アメリカ英語の発音が変化しつつある」と、ネバダ大学リノ校の元講師で英語文法の専門家として知られるGrammer Girlことミニョン・フォガティ氏が解説しています。
Have You Noticed People Not Pronouncing Their T's? | Grammar Girl
https://www.quickanddirtytips.com/education/grammar/pronouncing-T
Butter(バター)、Kitten(子猫)、Water(水)などのように、英語では「t」の子音が頻繁に登場します。英語における「t」子音の一般的な発音は日本語の「タチツテト」と同じで、音声学的には「無声歯茎破裂音」に分類されます。具体的には、舌の先と歯茎をくっつけて、声帯を振動させることなく空気を通過させながら一気に舌を離すことで生じる音が、英語における「t」子音となります。
Pronounce t sound — Pronuncian: American English Pronunciation
https://pronuncian.com/pronounce-t-sound
また、アメリカ英語では歯茎の比較的後側に舌をくっつけて「t」子音を発音することが多く、例えば「Water」が「ウォーター」ではなく「ウォーラー」、「Button」が「ボタン」ではなく「ボラン」と発音されるように、語中の「t」子音が「歯茎はじき音」に分類される音へ変化することがよくあります。
しかし、フォガティ氏は、ここ10年にわたって「t」子音の発音が、無声歯茎破裂音や歯茎はじき音ではなく、喉の奥にある声帯をぐっと閉めて空気の流れを止めて突然開いた時に出る「声門閉鎖音」に変化しつつあると指摘しており、この現象を「声門化」と呼んでいます。
以下のムービーの50秒辺りで、声門閉鎖音を使って英語の「Button」を発音するところを聞くことが可能。本来「t」子音を発音すべきところで、少し息を飲み込むような感じで発音していることがわかります。フォガティ氏によれば、Butter(バター)やImportant(重要)といった単語を声門閉鎖音を使って発音している例が、アメリカ北東部にあるオハイオ州で確認されているそうです。
[ ʔ ] unvoiced unaspirated radical glottal stop - YouTube
「t」子音の声門化は、もともとイギリスの男性労働者の間で使われた発音だとされています。しかし、なぜか労働者階級の発音が上流階級の若いイギリス英語話者の間でも見られるようになったことが、1982年に報告されています。イギリスの大手紙であるガーディアンは「『t』子音の声門化がいずれイギリスの標準的な発音になる可能性は十分にあるだろう」と2015年に予想しています。
アメリカで「t」子音の声門化が指摘され始めたのは2000年代後半からで、アメリカ東部にあるバーモント州の方言調査をまとめた2006年の論文では、「『t』子音の声門化はイギリスとアイルランドではよく見られるものの、これまでアメリカではあまり見られなかった」とした上で、「t」子音の声門化がバーモント州の住民、特に若い世代の間で特に強く見られるようになったことが報告されています。
さらに、2009年に行われた(PDFファイル)研究によれば、アメリカ東部だけではなくアメリカ西部の若い女性英語話者にも「t」子音の声門化がみられ、Mountain(山)やVermont(バーモント)の「t」子音を喉の奥で飲み込むように発音していたことがわかりました。同様の例は2012年にも確認されているとのことで、アメリカでは若い世代を中心に「t」子音の声門化が一般的になりつつあるとフォガティ氏は指摘しています。
フォガティ氏は「なぜ『t』子音の声門化が若者の間で広まっているのか、その原因はわかりません」と述べ、「地域全体、さらには国全体の標準的な発音は、数え切れないほどの要因に影響を受けて、徐々に変化します。一部の人には耳障りな発音でも、いつの日か私たち全員がそのように発音するかもしれません」と述べました。
なお、英語だけではなく日本語の発音も時代によって少しずつ変化しているようで、「東京出身者において母音の発音が世代ごとに変化している」という研究や、「若い世代でサ行の発音が変化している」という指摘などがあります。
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