中世のロングボウから放たれた矢が現代の銃と同じような傷を相手に与えていたことが判明
中世イギリスで使われたロングボウは、相手の甲冑を貫通できる強力な武器だったと伝えられており、アジャンクールの戦いなどいくつかの重要な戦争で勝利を決定づけた要因となったといわれています。そんな中世のロングボウが「銃創に似た傷を作り、骨すらも貫通する威力を持っていた」と、エクセター大学の考古学者チームが発表しました。
THE FACE OF BATTLE? DEBATING ARROW TRAUMA ON MEDIEVAL HUMAN REMAINS FROM PRINCESSHAY, EXETER | The Antiquaries Journal | Cambridge Core
https://www.cambridge.org/core/journals/antiquaries-journal/article/face-of-battle-debating-arrow-trauma-on-medieval-human-remains-from-princesshay-exeter/635CF25C2252F62EAD82C124224914A4
Medieval arrows caused injuries similar to gunshot wounds, study finds | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/05/medieval-arrows-caused-injuries-similar-to-gunshot-wounds-study-finds/
中世のロングボウが持つ威力については、昔から歴史学者が議論を重ねています。ロングボウのレプリカを使った再現実験は数多く行われていますが、現代に伝えられるロングボウは1982年に引き上げられた沈没船のメアリー・ローズ号の残骸から発見されたもので、およそ16世紀に使われたもの。アジャンクールの戦いが起こった14世紀~15世紀に使われたロングボウは現代に残っていません。
そこで、エクセター大学の歴史学者であるオリバー・クレイトン教授が率いる研究チームは、中世の埋葬地から発掘された22の骨片と3つの歯に残された傷から、ロングボウで放たれた矢の攻撃力を検証しました。
この22の骨片と3つの歯は、1232年に設立された修道院の墓地から発掘されたもの。特にそのうちの1つである頭蓋骨の右目上部には刺し傷があり、右目にささった矢が頭蓋骨を貫通した跡が見られたとのこと。さらに、後頭部には内部から破壊された傷跡も発見されました。以下がその頭蓋骨で、矢は白い直線の軌跡で画像右側から刺さったとみられています。
これらの傷を分析したところ、この頭蓋骨を貫いた矢の矢尻は「ボドキン型」と呼ばれるものだったかもしれないと、研究チームは述べています。ボドキン型は断面がひし形になっているおよそ10cmほどの細長い矢尻で、薄いプレートアーマーであれば貫けるほど貫通力が高く、軽装甲の兵士や馬にも効果があったため、本格的に銃が戦争で用いられるようになる15世紀半ばまで多く用いられていたとのこと。以下の図のM8~M10が12世紀から16世紀にかけてよく使われていたものです。
さらに、矢が時計回りに回転するように飛び、頭蓋骨を貫通した可能性が示されたと研究チームは述べています。つまり、回転したボドキン型の矢尻は右目から突き刺さり、頭蓋骨を貫き、そのまま回転しながら内部から頭蓋骨を破壊したと考えられています。これはライフリングによって回転する銃弾が与える傷とよく似ているとのこと。研究チームは、中世のロングボウも矢を軸に対して垂直に回転させることができ、それによって威力を上げていた可能性を指摘しました。
また、同じ修道院の墓地から発掘された右すね骨や大たい骨にも、頭蓋骨と同様に矢が突き刺さった傷が見つかったことを、研究チームは報告。さらに「これらの傷の元となった矢を放った人物は同一人物である可能性があります」「最初に頭部へ致命傷となる一撃を受け、その後にすねと太ももに矢を受けたとみられます。これは推測の域を出ませんが、この骨の持ち主は立っていたのではなく、馬に乗っていたか、あるいは高い構造物にいたと考えられます」と述べています。
クレイトン教授は「今回の研究結果によって、中世のロングボウの威力について、深い理解が得られました。中世の世界では、目や顔に矢が刺さった場合の死は特別な意味を持ちます。1066年のヘイスティングズの戦いで、イングランド王ハロルド2世は敵の矢に目を射抜かれて亡くなったと伝えられていますが、敵に目を射抜かれることは神の罰と考えられました。私たちの研究は傷が持つ恐ろしい現実と向き合うものです」と述べました。
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