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アート

中世の刺繍画に描かれた「93本のペニス」が表しているものとは?


バイユーのタペストリーには、1066年にウィリアム1世がイングランドを征服してイングランドの王となった、ノルマン・コンクエストの物語が描かれています。「タペストリー」という名前がついているものの、実際にはタペストリー(織物)ではなく刺繍(ししゅう)画です。タペストリーの特徴の1つは、実に93本ものペニスが描かれているということ。一体、このことにどのような意味があるのか、研究者が調査を行っています。

The 93 penises of the Bayeux Tapestry: what do they tell us? - History Extra
https://www.historyextra.com/period/medieval/bayeux-tapestry-penis-why-norman-conquest-battle-hastings-william-conqueror/

93 penises on the Bayeux Tapestry show medieval people were obsessed with penis size too — Quartz
https://qz.com/1329226/93-penises-on-the-bayeux-tapestry-show-medieval-people-were-obsessed-with-penis-size-too/

バイユーのタペストリーは、ノルマン・コンクエストが発生してからそれほど時間がたっていない、11世紀後半に作られたとされています。フランスのバイユー大聖堂に長らく保管されてきたバイユーのタペストリーは、物語の最後にあたる2場面が欠落しているものの、現存している部分だけで70mもの長さがある長大な刺繍画です。

フランスとイングランドにまたがる歴史的遺物であるバイユーのタペストリーについて、これまでにも多くの研究者が調査を行ってきました。調査の結果、タペストリーには626人もの人物、190頭の馬、35匹の犬、37本の木、32隻の船、33棟の建物が描かれていることが判明しています。ところが、これまでの研究者はタペストリーに描かれた「ペニス」の本数を数えることはしてきませんでした。オックスフォード大学の歴史学教授であるジョージ・ガーネット氏が、バイユーのタペストリーを調査したところ、タペストリーには93本のペニスが描かれていることが確認されました。

ガーネット氏によれば、93本のペニスのうち88本が馬のペニスであり、残りの5本が人間のペニスであるとのこと。タペストリーには馬の他にも犬が描かれているものの、犬にはペニスが描かれていませんでした。また、人間のペニスは4本が生きている人間のもので、残りの1本はヘイスティングズの戦いで戦死した兵士の遺体についていたものでした。


タペストリーに描かれた膨大な数のペニスについて、ガーネット氏は「タペストリーの製作者が男性であるという印です」と述べています。ガーネット氏によれば大量のペニスを描きたがるのは青年期の男性に見られがちな心情であり、女性のものらしくないとのこと。一方、歴史的な観点からジェンダーやセックスについての講義を行うアンドリュー・リア氏は、「『たくさんのペニスを描きたがるのは若い男性に違いない』という考えは、早計だと思います。21世紀における価値基準が、11世紀にもそのまま適用できるとは限りません」と述べ、大量のペニスは必ずしも刺繍者が男性であることを証明しないと語りました。

ガーネット氏はペニスの刺繍者が男性か女性かに関わらず、ペニスの存在からタペストリーに込められた意図を解釈できるとしています。ノルマン・コンクエストの物語では、イングランドを征服したウィリアム1世と、逆に征服されてしまったハロルド2世が主人公としてスポットを当てられています。この2人の主人公について、ガーネット氏は「彼らの持つ馬が特に大きなペニスを持っています」と指摘。加えて、ウィリアム1世の馬が持つペニスがハロルド2世の馬が持つペニスよりも巨大だという点も、タペストリーの解釈にとって重要な点だと述べています。

ヘイスティングズの戦いが始まる直前に、馬丁からウィリアム1世に贈られた馬のペニスは、非常に大きく描かれています。これは、「男性の生殖器の大きさが男性にとっての強さを意味する」という中世の世界における認識を表したものであり、征服者であるウィリアム1世は自身が持つ馬のペニスを含めて、男性として強力な存在でなければならなかったとのこと。


ペニスの大きさが男性的な強さを意味するという発想は、中世ヨーロッパにおいては広く認められていた模様。ところが、古代ギリシャや古代ローマで製作された彫像を見ると、ペニスが小さいことがほとんどです。古代ギリシャにおける美の基準として、「ペニスが大きいことはその男性が自らの欲望を制御できない、だらしない人物であることを表している」という思想が存在しており、男性のペニスは小さいほど理性的な存在であると考えられていました。

一方、日本の春画におけるペニスはいずれも非常に大きく描かれていますが、日本では大きさによって優劣が付けられているわけではなかったそうです。どのペニスも等しく大きく描かれていることから、ペニスの大きさによって男性的力強さを描くという思想はなかったとのこと。


また、バイユーのタペストリーにはノルマン・コンクエストの物語とは直接関係がない、身元不明の司祭が女性に嫌がらせをしているシーンも描かれています。その真下に裸の男性がペニスを露出させている図が刺繍されており、多くの研究者は女性が何者で、いったいどういう理由でこのシーンが描かれたのかを考えてきました。

ガーネット氏は、タペストリーが作られてすぐにバイユー大聖堂に飾られたという点から、「このシーンはタペストリーが製作された時代に発生した、身近なスキャンダルについて描かれたものだ」と考えています。21世紀の人々が見ても何を意味するシーンなのか推測できませんが、当時の人々からすれば「ああ、あの話を表しているのだな」と理解できるほどには、有名なスキャンダルだったのではないかとのこと。

聖堂に飾られたというタペストリーは、もちろん聖職者の人々も多く目にしたはずですが、同時に多くの一般人もタペストリーを目にしたはずだとガーネット氏は述べています。そのため、身近なスキャンダルといった話題も刺繍で描かれ、多くの人を楽しませるようになっているとのこと。タペストリーに描かれたペニスに着目することで、人々が想像する以上の解釈を研究者は導き出しているようです。

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in アート,   メモ, Posted by log1h_ik