サイエンス

化石燃料を使わない航空機用ジェットエンジンのプロトタイプが発表される


人類は輸送においてガソリンなどの化石燃料に依存していますが、化石燃料は「温室効果ガスを生み出す」「埋蔵量が限られている」という問題があります。そんな化石燃料を必要としない「電気のみで駆動する航空機向けジェット推進装置」のプロトタイプを武漢大学技術科学研究所の研究チームが発表しました。

Jet propulsion by microwave air plasma in the atmosphere: AIP Advances: Vol 10, No 5
https://aip.scitation.org/doi/10.1063/5.0005814

Fossil fuel-free jet propulsion with air plasmas | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2020-05/aiop-ffj050420.php

Microwave thruster makes for clean-burning jet | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/05/microwave-thruster-makes-for-clean-burning-jet/

従来型のジェットエンジンは、取り込んだ空気に含まれる酸素と化石燃料を燃焼させて熱エネルギーを生み出し、この熱エネルギーで燃焼ガスを加熱・膨張させて推力を得ています。つまり、ジェットエンジンにおいて化石燃料は「熱エネルギーを生み出す」ということに活用されています。


この熱エネルギーを「プラズマから生み出す」というジェットエンジンのプロトタイプを武漢大学技術科学研究所の研究チームは作成しました。武漢大学の開発した化石燃料を必要としないエンジンは空気を高圧に圧縮し、マイクロ波でイオン化することによって熱エネルギーを生成して推力を生み出します。

エンジンの構造を簡単に示したのが以下の図です。駆動時は、まずマグネトロンを使用して1kWの高出力マイクロ波を生成します。このマイクロ波が導波管の最も細くなる部分に接合された石英管の入り口付近で非常に強力な電界を生み出します。この電界を通過するように石英管に向けて圧縮空気を流し込む過程で圧縮空気中の窒素と酸素から電子が取り除かれ、低温かつ低圧のプラズマが生成。導波管の中でプラズマ内の荷電粒子が圧縮されて、イオン・原子・電子が振動することによって頻繁に衝突し合い、熱エネルギーを急速に生み出します。


過熱されたプラズマによって、石英管の中でトーチ型の炎が形成されます。この炎は電力によって出力が変動し、最大出力時は1000℃以上に達します。研究チームは、「本プロトタイプ機が生み出した推力は28N/kWで、商用航空機のジェットエンジンに匹敵します」と述べています。


今回発表されたのはあくまでプロトタイプで、実際の航空機向けジェットエンジンとはスケールが異なります。IT系ニュースサイトArs Technicaは「このプロトタイプが生み出した気流は実際のジェットエンジンに比べて1万5000分の1の大きさであり、推力・出力も1000分の1以下です」と指摘し、本プロトタイプを実物大のサイズにしたときにプラズマが安定しないといった可能性を挙げて、「複数の課題が残されています」と指摘しています。

研究チームのJau Tang氏は、「私たちの設計では化石燃料は不要で、温室効果や地球温暖化を引き起こす炭素排出はありません」「今回発表したプロトタイプは、従来の化石燃料によるジェットエンジンの潜在的な代替手段になり得ることを示しています」とコメントしています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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