自然とのつながりを感じられる子どもは「子ども自身が幸せなだけでなく他人にも優しい」ことが判明
これまでの研究により、「緑の少ない場所で育った子どもは精神疾患のリスクが55%も高い」ということが分かっており、子どもの健全な発達には自然が必要だとの見方が強まっています。今回行われた新しい研究により、「自然とのつながりは子どもの幸福だけでなく、人に優しくなれる人間性を育む」ことが確かめられました。
Frontiers | Connectedness to Nature: Its Impact on Sustainable Behaviors and Happiness in Children | Psychology
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2020.00276/full
Mental health study reveals the unexpected importance of sustainable habits
https://www.inverse.com/science/mental-health-study-reveals-unexpected-importance-of-sustainable-habits
Nature makes children happier, science shows - CNN
https://edition.cnn.com/2020/02/26/health/nature-makes-children-happier-wellness/index.html
「人類がさまざまな環境問題に直面している中、地球の未来は子どもたちのものであることを考えると、子どもたちが持続可能な社会を築けるかどうかは重要な課題です。しかし、自然とのつながりと子どもの行動の関係についての研究はあまり行われていません」と指摘するのは、メキシコのソノラ工科大学で心理学を研究しているローラ・フェルナンダ・バレラ・ヘルナンデス氏らの研究チームです。
そこで、バレラ・ヘルナンデス氏らは、メキシコに住む9~12歳の子ども296人を対象に、合計3つのアンケートを実施しました。最初の調査は、子どもたちと「自然とのつながり」を調べるというもの。
子どもたちは「自然のさまざまな音を聞くのが好き」「自然の中にいると安らぎを感じる」「人間は自然界の一部」「石や貝を集めるのが楽しい」「動物の世話をするのが好き」「野生の動物が傷ついているのを見ると悲しい」といった16の設問に対し、「完全にあてはまる」から「まったく当てはまらない」の5段階で回答するリッカート尺度形式のアンケートを受けました。
2つ目の「持続可能な社会行動」に関する調査では、「利他主義的傾向・環境に優しい行動・公平さ・節制」などについて回答。例えば、利他主義的な傾向を調べるアンケートには、「古着を人にあげる」「赤十字社に募金する」「転んだ人を助ける」といった項目がありました。環境に優しい行動としては、「使い終わったペットボトルを分別する」「積極的にリサイクルしたり、友だちや家族にリサイクルを勧めたりする」「人がいない部屋の電気を消す」「歯を磨いている間は水を止める」「冷蔵庫を開ける時間はなるべく短くする」などが例として挙げられました。
研究チームは最後に、主観的幸福感尺度(SHS)で子どもの「幸福度」調べるアンケートを実施して、3つの調査結果を総合的に分析しました。
その結果、「自然とのつながり」と「持続可能な社会行動」と「幸福度」の間には、それぞれ相関関係があることが分かったとのこと。特に「幸福度」と最も関係が深かったのが「自然とのつながり」で、「持続可能な社会行動」の中の「持続可能な社会行動」の中の利他主義的傾向・環境に優しい行動がその後に続きました。
このことから研究チームは「自然とのつながりが強いと感じている子どもは、より持続可能な社会を築く行動をとる傾向にあることを示してしています。また、環境のことを気にかけていて、利他的で、質素で、公平な子どもほど、幸福感が大きいことも示唆されました」と述べました。
自然との触れ合いが子どもにとって重要だということが判明した一方で、自然との触れ合いが少ないことの弊害も分かってきています。例えば、教育現場では今回のような研究が行われる前から、野外で過ごす時間が少ない子どもにさまざまな問題行動が観察されており、こうした症状は「自然体験不足障害(NDD)」と呼ばれています。
バルセロナ国際健康研究所で環境と健康の関係について研究しているマーク・ニーウェンハウゼン氏はニュースサイトInverseの取材に対し、「自然が子どもの発達に必要なのは、人類が長い間サバンナやジャングルに住んでいる中で脳を発達させてきたからだと考えています。人類が都市で住むようになったのはほんの数百年の間に過ぎず、脳はこの変化に適応できていません。これがある種のストレスとなり、特に小さな子どもの脳の発達に影響を与えているのではないでしょうか」と話しました。
このニーウェンハウゼン氏の考え方は、「人間は自然や他の生き物とのつながりを探求する傾向を生まれつき持っている」というバイオフィリア仮説に立脚したもの。ニーウェンハウゼン氏は以前にも、ヨーロッパの4つの都市に住む3585人を対象とした研究により、「幼少期における自然への暴露の少なさと、成人してからの神経過敏やうつ病との間には相関関係がある」ということを突き止めています。
子どもに自然と触れ合わせることの重要性が明らかになるにつれて、実際に自然との触れ合いを重視する動きも活発化しています。アメリカのアトランタ州にある教育団体Waldorf Schoolで子どもに園芸を教えているMiyuki Maruping氏は「子どもたちは、わくわくできて、楽しく自然と接する事ができる生涯学習者のお手本を必要としています。なにも環境科学や自然の専門家である必要はありません。大切なのは、楽しく安全な環境で子どもが好奇心を満たせるように、子どもと一緒の時間を過ごすことです」と話しています。
アトランタ州以外にも学校を持つWaldorf Schoolでは、アメリカ各地で「森の幼稚園」という自然教育プログラムを実施して、児童らにガーデニングやハイキングなどの野外活動を行わせているとのこと。
バレラ・ヘルナンデス氏は「今回の研究は教育者への教訓となるものです。子どもを持つ親や先生は、子どもたちがもっと自然に触れる機会を増やすべきです。そうすることが、地球の将来を担う子どもたちが環境に優しく幸福な大人に育つことにつながります」と話しました。
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