結局「ビタミンC」はがんに効くのか?
ビタミンCは、人体で重要な働きをしている必須栄養素の1つです。がんに効果があるとうたわれている代替治療法の中には、このビタミンCを高濃度で静脈に点滴する「(PDFファイル)高濃度ビタミンC点滴療法」というものがあり、実際に一部の医療機関で行われています。そんなビタミンCが「がんに効く」という説について、医薬品化学者であり王立化学会のコラムニストであるデリク・ロウ氏が論じました。
Vitamin C and Immuno-oncology | In the Pipeline
https://blogs.sciencemag.org/pipeline/archives/2020/03/02/vitamin-c-and-immuno-oncology
20世紀における最も重要な化学者の1人として広く認められているライナス・ポーリングは、晩年、末期のがん患者に点滴や経口で大量のビタミンCを投与する治療法の研究に注力しました。ポーリングの研究は、ビタミンCという栄養素の存在やその効果が一般社会に広く浸透するきっかけとなりましたが、ビタミンCが病気を治療するメカニズムについてのポーリングの理論は誤りだったことが後年明らかになっています。
ポーリングは1976年の論文で、「がん患者にビタミンCを経口と点滴により投与すると、ビタミンCの抗酸化作用によりがん患者の寿命が延びる」と発表しました。しかし、その後さまざまな機関で実施された追加の研究では、経口によるビタミンC投与の効果は再現されず、点滴での投与もポーリングが考えていたよりはるかに高用量で投与しなければならないことが判明しました。
一方で、ビタミンCが実際にがん治療に効果があることを示唆する最新の研究も報告されています。イタリアのトリノ大学でがんを研究しているアレッサンドロ・マーグリ氏らは2020年2月26日に発表された論文の中で、これまで行われていた免疫不全マウスではなく、免疫が正常なマウスを用いた実験により「高用量のビタミンCががん免疫療法を強化」することを明らかにしました。ただし、これはビタミンCがマウスの正常な免疫系を介してがんに作用していることが理由である可能性が示唆されており、ポーリングが提唱したメカニズムとは無関係だと見られているとのこと。
by Armin Kübelbeck
また、同研究結果に対し、ロウ氏は「最大の疑問は、マウスの実験結果が人間にもあてはまるかどうかです」と指摘。マーグリ氏らの実験に限らず、がんに関する研究は人間で効果が確認されてはじめて実証されるため、臨床試験による再現が不可欠です。幸いなことに、今回マウスで行われたような「高用量静脈内アスコルビン酸(ビタミンC)塩治療」は、患者が耐えることのできる副作用である忍容性が良好なため、人間で効果を確かめるための障壁はほとんどないとのこと。人間での試験が良い結果となれば、既存の治療法と組み合わせてその効果を高めることが可能な低コストの治療法として活用できると、ロウ氏は期待しています。
ロウ氏は「もし『やっぱりポーリングは正しかった』という見出しの記事を見たら、それは信用しないでください。ポーリングはあまたの正しい研究で知られていますが、多くの大胆な思想家的科学者と同様に、間違う時は盛大に間違いました」と述べて、ビタミンCががんに効くかどうかは今後さらなる研究と実験の結果を待つ必要があるとの見方を示しました。
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