なぜ「美しく住みにくすぎる家」がアムステルダムの運河沿いには並んでいるのか?
By f9photos
オランダにあるアムステルダムの運河沿いに並ぶ細長い家は思わず写真に撮りたくなる美しさですが、実は「住むためだけに建てられた家ではない」という特徴があります。狭く奥行きのある区画、はしごと同じくらい急な階段など、アムステルダムの家は17世紀に建築された当初、「家」としての用途とは少し異なった目的で建てられました。
The History of Amsterdam's Canal Houses - CityLab
https://www.citylab.com/design/2020/01/amsterdam-architecture-history-canal-houses-urban-design/604921/
建築史家である持つウーター・ヴァン・エルバーグ氏は、「運河沿いの家は、当初から住居、貯蔵庫、および事務所を併設できることが念頭に建築されました」と語ります。
17世紀、アムステルダムは北ヨーロッパを代表する港でした。このため、「運河から運び込まれた商品を貯蔵・取引するための場所」として活用された運河沿いの家には、当時のオランダの商業精神とアムステルダムの伝統が反映されています。エルバーグ氏によると、運河沿いの家は最大50%のスペースが貯蔵庫として使用されていたとのこと。
当時の住人は、貯蔵庫に商品がところ狭しと並べられた狭い家に住んでいたわけではありません。「当時のアムステルダムを訪れた人々の文献をひもとくと、『オランダの家は豪華であるべき』という慣習が運河沿いの家にあったようです。カルヴァン主義者の慣習として、建物内に豊かさを誇示するための装飾を施す傾向があり、2~3部屋しかない家でも、豪華に飾るための部屋を確保するために、家族全員が1部屋で一緒に寝ることもありました」とエルバーグ氏は語っています。
また、運河の家の典型的な特徴として、大きなフックを備えたコーニスがあります。運河沿いの家では屋根裏部屋を貯蔵庫にする家が多く、保管のために荷物が定期的に屋根裏部屋に運ばれていました。居住者は階段から上階に荷物を運ぶよりも、楽に上階に荷物を運ぶ必要があったため、家に備えたウインチとフックを使って、荷物を引き上げる方法が一般的でした。 以下の画像にあるフックが、荷物の引き上げに使われていたものです。
By Shunga_Shanga
フックとウインチにより、階段から荷物を搬入する必要がなくなったので、屋内の階段を狭く急勾配にすることで貯蔵庫用の商業スペースを広く確保していました。また、細長く奥行きのある区画の家では、小さな中庭や、「裏家」のためのスペースを確保する家も登場しました。アンネ・フランクが、ドイツ軍から身を隠していた隠れ家も、奥行きのある区画を生かして建てられたものでした。
19世紀、フランスの占領によりナポレオンが、アムステルダムの小規模倉庫を推進していた商業組合を解体したことから、運河の家が持つ特徴は失われていきます。19世紀の終わりまでに、変更された建築規制と国際的な影響により、アムステルダムの運河沿いに並ぶ家の大部分はアパートに改築されました。かつては労働者階級の住居だった家も、21世紀には非常に人気のある物件と変わっていきました。
「運河の家が、商人の家からアパートへ移り変わったことで、特徴が失われたわけではありません」とエルバーグ氏は語ります。多くの家は住みやすく改築されていますが、急勾配の階段や、部屋の隅の天井が低くなった屋根裏部屋が残っている家もあります。また、運河の家の建築は、後世のオランダの建築様式に大きな影響を与えており、「運河の奥行きのある細長い家の名残から、オランダの住宅は建物の正面から裏口まで続く長い廊下が特徴となっています。また、『豪華な部屋』を1つ確保するという考え方も残っています」とエルバーグ氏は語っています。
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