サイエンス

光合成を行う細菌が強度を高める「生きた建材」が開発される


光合成を行う細菌を組み込んだ「生きた建材」のプロトタイプをアメリカのコロラド大学ボルダー校の研究チームが開発しました。ニューヨークタイムズやScience Alertなどの報道各社は「生きたコンクリート」として報じています。

Building materials come alive with help from bacteria | CU Boulder Today | University of Colorado Boulder
https://www.colorado.edu/today/2020/01/15/building-materials-come-alive

Scientists Create “Living Concrete” That Can Heal Itself
https://futurism.com/the-byte/scientists-create-living-concrete-heal-itself

“Living concrete” is an interesting first step | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/01/living-concrete-is-an-interesting-first-step/

発表によると、コンクリートの強度の一部は、硬化プロセス中に形成される炭酸塩が原因とのこと。炭酸塩は、水生生物の殻にも含まれているため、「生物学の知識を材料科学に生かす」というアイデアは注目を集めつつあります。

研究チームは、光合成を行う細菌である藍藻の一種・Synechococcusに着目。Synechococcusは、光合成によって空気から二酸化炭素を吸収して材質の炭酸カルシウムを生成するため、新たに炭素を与えなくても自然に炭酸塩を生成してくれるという利点がありました。

研究チームはSynechococcusが生息するゼラチンをセメントとして、砂を混ぜた「生きた建材」を作成。この「生きた建材」はSynechococcusが生成した炭酸カルシウムによって石灰化し、モルタルと同じ強度まで硬化するとのこと。また、湿度50%以上の環境に置かれた「生きた建材」の中では、30日以上もSynechococcusが生存し続けるため、「生きた建材」の一部を分割して新たなゼラチン・砂に練り込むことで、「生きた建材」を増やすことが可能。さらに、「生きた建材」内でSynechococcusが光合成を行うため、空気から二酸化炭素を回収できるという特徴もあります。報道各社はこの研究結果を「生きたコンクリート」として報じました。以下がその実物です。


一方で、バークレー大学やコーネル大学などの研究機関で15年以上も生物学に関する研究を行った経験を持つ、Ars Technicaのジョン・タイマー氏は「本研究は、『生きたコンクリート』と聞いて思い浮かべるようなものではない」と指摘しました。本研究の「生きた建材」は弾力があり、強度を上げてコンクリートのように使うためには乾燥させる必要があります。この乾燥の過程で、「生きた」という概念の中核を成すSynechococcusは死滅します。つまり、「生きている」のと「コンクリート」という2つの状態を、同時に実現することはできないとのこと。

タイマー氏は、「開発された物体は論文中では『Living building materials(生きた建材)』と記されており、報道各社が引用した『生きたコンクリート』という語句はプレスリリース中には存在するが、論文中にどこにもない」と指摘。研究チームも論文中で「『生きた建材』は混合セメントに広く取って代わるものではない」と述べています。タイマー氏は「乾燥して固化した後の物質内でも長生きする細菌を新たに選ぶ」といった改良の余地が多いに残されていると述べて、本研究を「興味深い題材の、ごく初期の取り組み」だとコメントしました。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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