インタビュー

「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」のBB-8を日本伝統の信楽焼で作り上げる現場を見てきたレポート&制作者の濱中宣秀さんインタビュー


1977年に公開された映画「スター・ウォーズ」シリーズの9作目にして、スカイウォーカー家の物語を描くスター・ウォーズ完結編、「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」が2019年12月20日(金)に公開されます。公開を記念して、信楽焼の陶芸家である濱中宣秀さんが、劇中に登場するドロイド「BB-8」を信楽焼で制作。あのBB-8がどのようにして信楽焼で焼き上げられたのか、その制作現場を実際に見に行ってきました。

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け|映画 | スター・ウォーズ公式
https://starwars.disney.co.jp/movie/skywalker.html

目次:
◆信楽焼「BB-8」の制作風景
◆制作者の濱中宣秀さんにインタビュー
◆信楽焼「BB-8」完成品披露

◆信楽焼「BB-8」の制作風景
信楽焼で制作されたのは「フォースの覚醒」からスター・ウォーズに登場する「BB-8」


濱中宣秀さんによって描かれた信楽焼BB-8の設計図。信楽焼のBB-8は約30cmの大きさとなっています。


まずBB-8の原型が作られた後、型が作られます。その型にBB-8の素地を入れて固めるとのこと。


実際に頭部の型を外すところを見せてもらいました。型を外して……


不要な部分をカット。


慎重に頭部を取り出します。


頭部の型の内側はこんな感じ。BB-8のモールドが内側に浮き上がっています。


型から抜いた後は、手作業で線を引き、模様を微調整していきます。


実際に手作業でBB-8の模様を描いている様子は、以下のムービーから確認できます。

「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」公開記念の信楽焼「BB-8」に細かい模様がつけられていく様子 - YouTube


BB-8の細かな装飾を再現した頭部と胴体。


合体させると……


焼かれていない状態でもBB-8と分かるほどの状態になりました。


工房にはBB-8に関するたくさんの資料やおもちゃがあり、BB-8を細部にまでこだわりぬいて制作する様子を垣間見ることができました。


◆制作者の濱中宣秀さんにインタビュー
濱中宣秀さん


GIGAZINE(以下、G):
工房に置かれている作品や、Facebookに載っている作品を見せていただいたのですが、馬や羊といった作品がなめらかで焼きマシュマロみたいにふわっとした優しい感じで「これが信楽焼?」と思いました。

濱中宣秀さん(以下、濱中):
動物は並べてると「パンみたいやね」「クッキーみたいやね」と言ってもらえるんです。そのノリで最初は見てもらったら面白いんじゃないかなと。


G:
信楽焼はすごく歴史のある文化のひとつで、文化財にも登録されてます。濱中さんが作品を作る中で使っている技法は、濱中さんご自身が考えたものなのか、それとももともと信楽焼の技法なのでしょうか?

濱中:
もともとある、信楽焼のタヌキの製法のまんまです。

G:
信楽焼のタヌキは、もっとつややかでゴツゴツしているイメージがあったんですけど、さらっと素焼きに近い雰囲気というか……

濱中:
現代のタヌキはかなり丸っこくなってきてますし、笑顔もかわいらしい。おめめもくりっとしたかわいい雰囲気になってるんで、その延長線上で、技法もそのまんまです。

G:
目のあたりの釉薬もですか?

濱中:
そのまんまです。タヌキの目の釉薬です。


G:
そうなんですね。BB-8の形についてですが、球体を信楽焼で作れるのかと気になっていました。完全な球体となると、少しでも何かあったら割れてしまったり、ゆがんでしまったりしそうで難しそうに思ったのですが、Facebookで大きいナマズの作品を見させていただいて、できるんだと思いました。

濱中:
ナマズの作り方とはまた違うんですけど、近いものはあります。

G:
球体を信楽焼で作るというのは、試みとしては新しいものなのでしょうか?

濱中:
そうですね。ここまでまんまるなのは、なかなか作る機会もなかったですし、初めての試みです。

G:
球体の中は空洞ですか?

濱中:
空洞です。

G:
球体を作る苦労や難しさはありますか?

濱中:
ひたすらもう、へらと板でならしていく。

G:
ならして球体に近づけて……ということは、そちらに置かれているBB-8も完全な球体に見えますが、これも濱中さんがならして作りあげたのでしょうか?


濱中:
そうですね。ただ、まん丸よりもちょっと縦に長いんですよ。

G:
縦に?

濱中:
あえて長くしてあるんです。焼きの時にひずんできたりするので、そのへんも計算に入れて縦長になってるんですよ。

G:
BB-8のモデルもいろいろ置いてありますね。

濱中:
そうですね。おもちゃを取り寄せて、どこまでやっていいのか分からないですけど「とことんこだわりぬいたろう」と思っています。


G:
BB-8はモールドに複雑なパターンが非常に多く描かれていますが、それを球体の上に描いていくというのは難しいものですか?

濱中:
難しいです。本当に難しくて、つじつまが合わなくなってくるんですよね。それを合わせるのが時間かかりましたね。


G:
なるほど。モールドもあまり深く入れすぎたらひび割れになるでしょうし、その辺は普段お仕事とかでも作られている部分だとは思いますが、これだけたくさん線が入ってる陶器はなかなか見ない気がします。

濱中:
やったことないですね。ここまでやるのは初めてやりました。

(一同笑)

G:
濱中さん自身の手で線を引かれていて「定規を使わずにハンドフリーでやるのが焼き物や」ということで、すごい数の線を入れているので驚きました。BB-8のモールドは、1回型を抜いて入れ直すのにどのくらい時間がかかるんですか?

濱中:
上下やったら5~6時間。下手したら1日で終わらなくて、次の日に持ち越したり……

G:
焼き上がるまでの作業の中で、モールドが一番大変ですか?

濱中:
一番重いんじゃないんですかね。ウェイト的には一番重い。


G:
元々アニメやゲームなどといったサブカルチャーがお好きだったんでしょうか? どういう作品がお好きですか?

濱中:
小学生の頃はガンダムでしたね。今でもガンプラは買ってます。

G:
ガンダムは初代の「機動戦士ガンダム」からお好きなんですか?

濱中:
ファーストから全部見ていると言ってもいいくらい、ガンダム好きです。

G:
窯の前に展示されていた「狸」と書かれたロボット像も影響を受けているのでしょうか?


濱中:
あの辺は、ガンダムの流れです。「ガンプラを陶器でやったらどうなるかな?」というので、著作権があるのでそのままはできないですけど、自分でデザインした形を作ってます。

G:
同じく陶芸家の奥田大器さんファンタスティックフェスティバルに参加するなど、今までサブカルチャー的な作品も作ってきた中で、今回のBB-8制作に生きた部分はあるのかが気になります。普段作られている陶器などとは方向性が違っていると思いますが、造形も含めて、作る部分で違うと思った部分はありましたか?

濱中:
売れ筋はやっぱり動物シリーズなんですけど、ロボットは趣味の域に近いというか、ロボットにしても、ドラゴンにしてもそうですし、僕の趣味の延長上にあるものというか、その最たるものやなって。


G:
なるほど。陶芸家としての濱中さんについてお聞きしたいのですが、まず最初に陶芸を始めたのはどういうきっかけだったんでしょうか? 宝塚の造形美術大に通われていたとのことで、そこで学ばれたんですか?

濱中:
大学では絵しか描いていなくて。陶芸コースも無かったんです。すごく小さい頃から粘土造りがすごく好きで、小学生の頃は粘土があれば黙ってずっと作ってるような子で、それが仕事にできたら一番いいなって思ってました。大学卒業後に信楽に来たとき、最初は食器屋さんに飛びこんで勉強させてもらってたんです。けど「1年間、陶芸の学校行ったらどうや?」って食器屋さんの社長に勧められて、平日は陶芸の学校に行きつつ、学校が終わってから食器屋さんで働いて、土日に時間があれば食器屋さんをお手伝いして……という生活をしてました。


濱中:
最初は湯飲みやコーヒーカップを作る作業をしていたんですけど、自分のなかで粘土遊びとはかけ離れてきて「違うな」と思ってきてたんですね。そしたらこの工場の社長、僕にしたら今の義理の父親になるんですけど、社長から「アルバイトに工場にきいひんか?」っていうお誘いをもらったんです。その人が干支の原型で牛を作ってはって、それを見たとき、牛のリアルさにびびっときて「これやりたい!すげー!」と。この技術は絶対盗みたいと思って、そこからですね。

G:
リアルな作品というと、動物やコミカルな羊や馬や犬のような作品の中にすごくマッチョな像もあって、印象的でした。

濱中:
実はリアル感のあるものも好きで、やっぱりこれですよね。


濱中:
これは普通にただ筋肉が作りたいってだけで「筋肉を作ったろう」と。骨と筋肉の付き方から全部勉強して、楽しんで作りましたね。1年に1回くらいリアルなもの作らないと腕が鈍ってくるんですね。

G:
なるほど。

濱中:
ドラゴンもそうなんですけど、1年に1回、何か凝ったやつを作らないと自分の中でも気が済まないというか。


G:
全部、信楽の技法ですか?

濱中:
そうです。ただ原型については、独自の製法があるので……。竜や仏像も依頼されて作ったことはあるんですけど、1年に1回だけリアルなものを作りたくなるときがあるんです。それは商売抜きにして作りたいなって。

G:
自分の技法や、技術を保つとか、自分のモチベーションも含めてやっていくためにリアルなものもどんどん作っていきたいと?

濱中:
そうですね。技術向上のためにもいい機会だなって。

G:
小さい頃から粘土作りが好きというお話をされていましたが、濱中さん自身の体験として、立体物を作る最初の原体験は何だったのでしょうか?

濱中:
小学校のときに粘土で、僕のおばあちゃんが拝んでいる姿を作ったことですね。おばあちゃんは毎日、朝晩お仏壇の前でお経を唱えてたんです。小学生の1年生か2年生くらいに「おばあちゃん、毎日朝晩拝んで大変やな」と思って、粘土でおばあちゃんの姿を作って、仏壇の前にぽんと置いたんですね。「おばあちゃん大変やから代わりに置いといたわ」って言ったんです。そしたら、おばあちゃんがすごく喜んでくれて「なんていい子なんや、この子は」って褒めてくれて。ただの粘土で作った人形なのに、こんなに人に喜んでもらえるんだって、その時に初めて思って、だから多分僕いまここにいるんだと思うんですよ。


G:
なるほど。

濱中:
僕の粘土遊びの原点はそこだと思います。そんなに喜ばせられるんだったら、もっと作ったらたくさんの人を喜ばせられるかなって思ったら、もう本当に、動物シリーズじゃないですけど、それを見てちょっとでも笑ってもらえたら、それ以上うれしいことは僕にはないので、もう本当にそれだけですね。

G:
そうなんですね。最後にお聞きしたいのですが、2019年9月から連続テレビ小説で「スカーレット」が放送されてから、どんな反響がありましたか?

濱中:
やっぱり盛り上がりはすごいので、あらゆる人からお電話いただいたり、メールいただいたり、「スカーレット盛り上がってるね」とか、「信楽取り上げられてすごいね」とか言ってもらえるので、信楽に住んでてほんとにうれしいです。是非とも信楽をアピールできたらいいなと思ってます。

G:
信楽焼BB-8もあるし、スカーレットもあるしで注目も集まりますね。完成が楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました。

◆信楽焼「BB-8」完成品披露
インタビューから数週間後、信楽焼BB-8完成品のお披露目会が開かれるTOHOシネマズにやってきました。お披露目会が開かれた2019年12月4日(水)の「4日」と「フォース」をかけた「フォースの日」に合わせての公開とのこと。


会場には「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」のポスターが飾られていました。


信楽焼BB-8を作り上げた濱中さん自身の手で、我が子を抱くかのごとく慎重に信楽焼BB-8が運ばれてきました。信楽の里、滋賀から大阪まで、自身の手で信楽焼BB-8を運んで来られた濱中さんは「人にぶつからないよう、どきどきしながら運んだ」と語っていました。


大きさは、高さが約35cm、幅は約21cm。映画に登場するBB-8の高さは約70cmなので、本物の半分ほどの大きさになっています。


信楽焼BB-8の色合いについて、濱中さんは「せっかく信楽焼で作らせていただくのであれば、信楽焼の持つあたたかさを、緋色という色を通して表現できたらと思って作らせていただきました」と語っていました。緋色は釉薬による色で、発色が良くなるよう独自にブレンドした釉薬を使用しているそうです。


制作期間は約1カ月で、最終的に3体焼き上がった中から、一番いい色に仕上がったものを持ってきたとのこと。映画に登場するBB-8とは異なる美しさを醸し出しています。


濱中さんが「満足のいく光沢が出せた」と語るフォトレセプターの部分は、信楽焼ではタヌキ等の目に用いられる釉薬を使用しており、まるで本物のレンズのようなつややかさ。


アンテナ部分は信楽焼ではなく、木製のパーツが使用されています。


濱中さんの手で一本一本丁寧に刻まれたモールドも、きれいに仕上がっていました。


濱中さんが手がけた信楽焼BB-8は、2019年12月4日(水)から12日(木)までの間はTOHOシネマズ梅田本館にて、2019年12月20日(金)から29日(日)までは東京の日本テレビタワー2階にある日テレホールで開催される「最後のスター・ウォーズ展」で展示されます。


「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」は2019年12月20日(金)から公開されています。

「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」最後の予告篇 世界同時解禁 - YouTube

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in インタビュー,   動画,   映画,   アート, Posted by darkhorse_log

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