GPSより高精度な衛星測位システム「ガリレオ」が1週間以上システムダウンした原因とは?
人工衛星から発射される信号を用いて位置測定・航法・時刻配信を行う「全球測位衛星システム(GNSS)」には、GPSやガリレオなどさまざまな種類のものが存在します。中でもヨーロッパが運用するガリレオに興味を持ったというバート・ヒューバートさんが、2019年7月に起きた「ガリレオの停止」について解説しています。
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そもそもガリレオは、アメリカ国防総省が運営するGPSと同じようなGNSSを、ヨーロッパが民間主体で開発したというもの。GPSへの依存を減らすために始まった同プロジェクトは、1999年にスタートし、2016年12月ついに運用が始まります。
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2019年7月11日、そんなガリレオで大規模なシステム障害が発生し、1週間以上にわたりシステムが完全に停止するという事態が発生しました。90億ユーロ(約1兆1000億円)もの費用をかけて開発された衛星測位システムが1週間にもわたってシステムダウンしたという報道から、ガリレオについて興味を抱くようになったとヒューバートさんは語っています。
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by ESA - P. Carril
そもそもガリレオやGPSのようなGNSSは、宇宙空間でも正確に時を刻む原子時計を搭載する必要があります。そのため、ヒューバートさんによれば「GNSSをめちゃくちゃ単純に表すなら、その軌道と原子時計を基に1秒に1度ビープ音を鳴らすシステム」とのこと。文字で書かれると非常に簡単そうに感じますが、これを超高精度で実現しているのがガリレオなどのGNSSだそうです。例えば、GNSSに用いられている人工衛星の原子時計が3ナノ秒遅れてしまっただけで、システムの信号精度は1メートル以上ズレてしまう模様。なお、正常時のガリレオの信号精度は15~20メートル程度ですが、補強情報を用いることで20cm程度の信号精度を目指しているそうです。
ガリレオは人工衛星に搭載された原子時計の時刻データ・衛星の天体暦(軌道)・受信機側の時刻データの3つを用いることで、正確な位置情報を測定します。そして、非常に高い精度を実現するために、ガリレオは1時間に数回の頻度で天体暦情報をネットワーク経由でアップロードしています。
しかし、記事作成時点ではガリレオは頻繁に正確な位置情報が得られなくなってしまっているとのこと。そこでヒューバートさんはガリレオの原子時計や天体暦を外部機関のデータと照合するなどしたそうですが、これらに異常は見当たらないそうです。ヒューバートさんは「(ガリレオが)地上で何が起こっているのかわからなくなってしまったのでは」と語っており、その結果「No Accuracy Prediction Available(NAPA:精度予測は利用できません)」というステータスを通知し、携帯電話や自動車の位置測定にガリレオが利用できない状況が多発してしまっていると説明しています。
by Capturing the human heart.
なぜこのような状況となっているのかというと、そもそもガリレオの現状がそれほど素晴らしいものではないということが挙げられます。
ガリレオは26基の人工衛星を用いて構築される予定でしたが、そのうちの2基は周回軌道に乗ることに失敗しており、別の2基は利用されておらず、1基は利用不可能な状況となっています。そのため、21基の人工衛星でシステムが成り立っているとのこと。しかし、実際には24基の人工衛星でシステムを構築するように計画されていたため、各衛星がカバーする範囲にギャップが生じ、位置測定の精度が十分でないエリアが生じてしまっているそうです。
#Galileo family is growing: on 11th February four new satellites come into services. Even more accuracy at your service! #accuracymatters #usegalileo @EU_GNSS https://t.co/ybbrklkSZh pic.twitter.com/Wt5uhUerko
— spaceopal (@spaceopal) 2019年2月14日
また、ヒューバートさんは「GNSSを構築する機器は非常にデリケートなコンポーネントで構成されており、そのすべてが正常に動作する必要があるため、問題は時々発生するものです」ともコメントしています。実際に、ガリレオではシステムの約5%が軽微な問題から利用不可能な状況に陥ってしまっているとのこと。
しかし、ガリレオで起きたシステムダウンの原因は宇宙空間を飛び回る人工衛星に積み込まれた機材ではなく、地上で利用されているソフトウェア側にあるそうです。具体的に問題が発生したのは、衛星軌道と時刻データを決定するシステム。通常、これらのデータは何度も人工衛星にアップロードされるそうですが、ガリレオの軌道情報のプロビジョニングが停止してしまい、システム全体がダウンすることにつながったと説明しています。
障害が発生した理由としては「バックアップシステムが利用できなかった」「アップグレード中に誤処理が起きた」「ガリレオシステムの参照時間システムに異常が発生した」「通常とは異なる構成が存在した」という4つが挙げられています。また、オペレーターによるミスも障害発生の原因として挙げられており、欧州委員会(EC)の副局長であるピエール・デルソー氏も、ガリレオのシステム障害は「たった1人のせいである」と発言しているため、何かしらのヒューマンエラーが大きく影響したことも明らかです。
by Max Nelson
ヒューバートさんはガリレオが1週間にもおよぶシステムダウンを起こしてしまった理由のひとつに、ガリレオの運営に多くの組織や企業が携わっているという点を挙げています。EU・欧州宇宙機関(ESA)・産業界の間にはガリレオを維持するための複雑な取り決めがあり、「ガリレオというプロジェクトの信頼性は、企業や組織の複雑な広がりにより改善されない可能性がある」とヒューバートさん。
特に地上で利用されるソフトウェアにおいては、ESAがその開発を担当しているものの、ソフトウェアに修正などを加える際には開発者・ESA・欧州全地球航法衛星システム監督庁(GSA)などの関係各所を経由しなければいけないという大きな問題も抱えているとのことです。
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