ウシにシマウマのシマ模様を描くと「吸血ハエの数が半分になる」と判明
過去の研究により、シマウマの模様には「吸血動物を避ける作用がある可能性」が認められたほか、「白黒模様のボディペイントには実際に害虫を遠ざける効果がある」ことが判明しています。そんな中、ウシにしま模様をつけてその様子を観察した実験により、「シマウマの模様を描くとウシにたかるハエが半減する」ことが確認されました。
Cows painted with zebra-like striping can avoid biting fly attack
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0223447
日本を含む全世界に生息しているサシバエは、普通のハエと異なり哺乳類から血を吸う生態を持つ昆虫で、特にウシやウマなどの家畜にとっては深刻な問題です。サシバエに襲われたウシはストレスから運動量や食欲が減退し、不眠などの症状を引き起こすため、肉牛の体重が落ちたり、乳牛が出す乳の量が大幅に落ち込んでしまったりします。ある試算によると、こうしたサシバエによる被害額はアメリカだけでも年間約22億ドル(約2362億円)にのぼるとのこと。
このため、畜産業者は殺虫剤を使用するなどして対策を講じていますが、強力な殺虫剤は環境に対する影響だけでなく人畜への健康被害も懸念されます。しかも、害虫はすぐに殺虫剤に対する耐性を獲得してしまうため、根本的な解決策にはなりません。
そこで、より抜本的なハエ対策を模索していた愛知県農業総合試験場の研究者らは、「シマウマのしま模様には昆虫が体表に止まる運動を阻害する効果がある」という仮説に着目し、実際にウシにしま模様を付ける実験を行いました。
具体的には、6頭の黒毛和牛を「白黒のしま模様のウシ」「黒い線だけのウシ」「模様をつけないウシ」に分けて、同じ場所にロープでつなぎました。黒い線だけのウシが用意されているのは、模様ではなく塗料がハエを追い払う可能性を検証するため。また、模様をつけた後は塗料をよく乾燥させて、気化した化学物質がハエの行動に影響を及ぼさないようにしました。
そして、1分間ごとに1回の写真撮影を30分間行う観察を、朝と晩の2回に分けて実施し、写真に写ったハエの数や各グループのウシが行う「忌避行動」の頻度を調べました。忌避行動とは、ウシが体表に付いた虫を追い払うための動作で、「首をのけ反らせる」「耳を動かす」「足踏み」「皮膚をけいれんさせる」「尾を払う」の5種類に分類されます。
こうした観察実験の結果が以下の画像で、上が「ハエの数」のグラフ、下が「忌避行動の頻度」のグラフです。また、各棒グラフは左から「模様なし」「しま模様」「黒い線のみ」のウシを表しています。3日間の観察実験の結果、しま模様が描かれたウシに付いたハエの数はほかのウシの半分しかありませんでした。また、ハエに悩まされていることを示す忌避行動も約20%減少しています。
研究グループは論文の中で「ウシにシマウマのような模様をつけるだけで、吸血性のハエによる被害が半減することが分かりました。3~4カ月にわたるハエの飛来期の間持続する塗料が開発されれば、畜産業での実用化が可能です」と述べて、今回の研究は動物福祉や環境保護にも適した害虫対策の開発につながるものだとの見方を示しました。
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