なぜAppleのAirPodsは修理できないのか?
by eleven x
2018年の出荷台数が2600~2800万台と予測されているAppleのワイヤレスイヤホン「AirPods」について、ワシントン・ポストが「なぜAppleのAirPodsは修理できないのか?」と題してAirPodsが持つ設計的欠陥を指摘しています。
Why AirPods can't be fixed - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/technology/2019/10/08/everyones-airpods-will-die-weve-got-trick-replacing-them/
ワシントン・ポストの技術コラムニストであるジェフリー・A・ファウラー氏は、2016年にAirPodsを購入して使用してきたそうですが、2019年になって15分ほどでバッテリーがゼロになり使えなくなってしまうことに気づいたそうです。Apple StoreにあるApple公式のサポートであるGenius BarにAirPodsを持ち込んだところ、「申し訳ありませんが、私たちはあなたを助けることはできません」と店員に言われたそうです。
Genius Barの店員によると、2019年になってファウラー氏のように初期のAirPodsを購入したユーザーが、修理依頼にAirPodsを持ち込むそうです。その理由は、AirPodsのバッテリーは約2年で寿命を迎えるため。AppleはAirPods向けに修理サービスを提供していますが、Apple Storeへ修理に持ち込んでもバッテリーを交換する手段はなく、新しいAirPodsへの割引サービスが提供されるだけだとのこと。
少し前まではイヤホンやヘッドホンは、最も普遍的で長持ちする電子機器のひとつでした。しかし、AppleはAirPodsでイヤホンというものを「高価で使い捨てのできる電子機器に変えようとしている」「我々の財布と環境を傷つけている」とファウラー氏は指摘。また、ワシントン・ポストはAirPodsを破壊せずにバッテリーを交換することは「ほぼ不可能」として、筐体部分を破壊して中のバッテリーを取り出すムービーを公開しています。
Appleは公式サイト上のバッテリーのサービスとリサイクルというページ上で、「すべてのリチャージャブルバッテリーは耐用年数に限りがあり、最終的にバッテリーサービスやリサイクルが必要になる場合があります」と記しています。Apple製品では消耗したバッテリーを交換するためのサービスや、端末のバッテリー状態を分析する機能が存在しており、実際にiPhoneやMacBook向けのバッテリー交換サービスは広く利用されています。実際、AppleがiPhoneのバッテリー交換費用を60%以上値引きしたため、約1年間で1100万台ものiPhoneがバッテリー交換を行ったことが明らかになっています。
しかし、AirPodsの場合はAppleが提供するオプションが非常に少なくなるそうです、まず、AirPodsにはバッテリー状態を診断する機能が存在しません。そして、AppleはAirPodsのバッテリー平均寿命に関するガイドラインを共有していません。Appleの広報担当者は「AirPodsは長持ちするように設計されています」と語っていますが、ファウラー氏の場合は「34カ月でバッテリーが死んだ」と語っており、別のユーザーからは18カ月でバッテリーが死んだという報告もあります。
また、Appleの従業員ですらAirPodsの修理に関するオプションを十分に把握していないとファウラー氏は指摘しています。
ファウラー氏がAirPodsを修理に持ち込んだ際、オンラインとGenius Barで3人のサポートとやり取りを行ったそうで、最終的にAirPodsの修理は不可能と診断されたため、交換用の新品のAirPodsを138ドル(約1万5000円)で購入しなければいけないと言われたそうです。これは新品のAirPodsと同じ価格です。しかし、最初にサポートに連絡した際には、49ドルでバッテリーを交換してもらえると言われたため、ファウラー氏はApple側と何週間にもわたるやり取りを繰り返したそう。
その結果、Appleからは以下のような回答が得られたそうです。
・AirPodsが購入から1年未満の場合、バッテリーが既定値の「5時間のリスニング」に満たない動作しかできない場合、Apple Storeは無償でバッテリーを交換します。
・AirPods用の公式サポートプログラムであるAppleCare+ for Headphonesに加入している場合、購入から2年間はバッテリー交換サービスが受けられます。ただし、ワシントン・ポストは「この延長保証機関はわずか2年で、AirPodsのサポートには十分な長さではない」と記しています。
・AirPodsの保証期間外の場合、AppleはAirPods1本(片方)当たり49ドル(日本の場合は7800円)でバッテリーを交換すると公式ページに記しています。しかし、これは実質、合計で98ドル(日本の場合は1万5600円)の費用がかかるということを意味しているとファウラー氏。また、充電ケースの交換費用は49ドル(約5300円)だそうです。キーとなるのは「バッテリーサービス」というワードだそうですが、Appleは記事作成時点でカスタマーサービスに追加のトレーニングを提供中であるため、問題がある場合はこのページを提示することをファウラー氏は推奨しています。
保証期間外の場合、バッテリー交換に98ドルかかるのは「非常に高価だ」とファウラー氏は語っており、同じApple製品のiPhoneの場合はバッテリー交換費用が49ドル(日本の場合は5400円もしくは7400円)、Apple Watchの場合は79ドル(日本の場合は8800円)と、より安価にバッテリー交換可能であることを指摘。AirPodsのバッテリー交換費用が高価な理由は、バッテリーを交換するのではなく、イヤホンそのものを交換するためだとファウラー氏は指摘しています。
AirPodsの場合、バッテリーを交換せずに本体そのものを交換してしまう理由は、単に「バッテリー交換が難しい」というところにあります。なぜバッテリー交換が難しいのかについて、ファウラー氏は修理の専門家にアドバイスを求めました。iFixitのカイル・ウィーンズCEOは、初めてAirPodsを解体しようとした際に、カッターで何度も指を切って出血したこともあるそうです。また、解体中にバッテリーが燃え、煙が上がったこともあるとのこと。
それでも納得できなかったファウラー氏は、iFixitのウィーンズCEO監修のもと、実際に自分の手でAirPodsを解体してみたそうです。AirPodsのバッテリーを取り出すために、本体下部の金属パーツ部分をカッターで外そうとしたそうですが、このパーツは接着剤で固定されているためかなり難しく、加熱しても引き抜くことは難しかったとのこと。そのため、金属パーツの取り外し時にはカッターを深く切り込む必要があったそうです。また、普通のカッターでは解体に不向きであったため、ウィーンズCEOから特別な振動ナイフを借りたと記しています。
ファウラー氏によると、金属パーツを取り外してからも、本体内部には多数のパーツが接着剤で固定されていたとのこと。そのため、バッテリーをピンセットで引き抜くことはできなかったそうです。そこで、AirPodsの筐体部分を慎重にカットすることになり……
中から太めのパスタほどのサイズのバッテリーが出てきたそうです。実際に分解したところ、ファウラー氏は「再び組み立てすることはできませんでした」と記しており、ウィーンズCEOは「AirPodsを完全に破壊せずにバッテリーを取り出す方法は存在しませんでした」と語っています。
ワシントン・ポストはAppleに対してAirPodsの解体後の再組み立てが不可能なのかについて問い合わせしたそうですが、返答は得られなかったそうです。
このことについてファウラー氏は、「AirPodsの死因は明らかで、それはプロダクトとしての設計不良です」と指摘。さらに、ワシントン・ポスト以外のメディアからもAirPodsに対する批判的な主張が繰り返されており、VICEはAirPodsを「使い捨て文化の悲劇」と呼んでいます。ファウラー氏は「Appleがこのような使い捨て製品に夢中になっていることは、ファッション業界がスキニーモデルに固執することのIT業界版である」と指摘。さらに、「他のメーカーはAppleの設定したトレンドに従うべきであるというプレッシャーを感じている」と記しています。
過度に薄さを求める傾向はガジェットにとって健康的なものではありません。数ミリメートルのデザインを削ろうとするAppleのデザイン傾向は、MacBookのキーボードの故障につながり、多数のAirPodsをゴミ箱に捨てることにもつながったとファウラー氏は指摘。なお、ネジやラッチの代わりに接着剤で電子部品を固定することは、デバイスを軽量化し、湿気やほこりに対する耐性を高めることにもつながるとのことです。
Appleの広報担当者は「Apple製品は環境を念頭に置いて設計されています。我々はリサイクル業者と緊密に連携してAirPodsが適切にリサイクルされるようにして、サプライチェーン外のリサイクル業者にもサポートを提供しています」」と述べ、Apple製品が環境に配慮して設計されており、修理後の製品についても正しいサポートを行っていると主張しています。しかし、ファウラー氏は「AirPodsにはリサイクルできる材料はあまりありません。相当なエネルギー・水・材料がAirPodsの製造プロセスには必要となります」と指摘。また、地球の環境問題を正すためにはIT企業が修理と再利用を通じて製品を可能な限り長持ちさせる必要があり、「それにAirPodsは適していない」とファウラー氏は批判しています。
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