スティーブ・ジョブズでおなじみの黒のタートルネックが「カリスマの象徴」になるまでの歴史
by Re-Start Outlet
元AppleのCEOスティーブ・ジョブズ氏は2011年に亡くなりましたが、2019年になっても「もしジョブズが生きていればAppleとディズニーは……」「スティーブ・ジョブズが魔法の呪文を唱えると人々は魅了された」と語られるなど、後世に与えた影響は計り知れません。そんなジョブズ氏の象徴でもある黒のタートルネックは「クリエイティブなカリスマの象徴」とみなされており、その歴史について、芸術や美術専門の情報サイトであるArtsyがまとめています。
How the Black Turtleneck Came to Represent Creative Genius - Artsy
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-turtleneck-iconic-creative-genius
黒のタートルネックに身を包んだジョブズ氏のフォロワーはたくさんいますが、その中でもっとも成功した人物の1人がアメリカの実業家エリザベス・ホームズ氏です。ホームズ氏が大学を中退して起業した医療ベンチャーTheranosは2014年に時価総額9000億円に達し、創業者のホームズ氏は「自力でビリオネアになった最年少の女性」として話題になりました。
エリザベス・ホームズ氏
by Max Morse for TechCrunch
輝かしい成功を手にしたかのように見えたホームズ氏ですが、その後Theranosの経営と医療技術に関する数々の不正が暴かれたことで失脚。Theranosは2018年9月には解散を迫られることになり、ホームズ氏は裁判所からTheranosの株式の放棄や、今後10年間の上場企業の役員や取締役への就任禁止を命じられてしまいます。しかし、アメリカのマスメディアがこぞって取り沙汰したのは、ホームズ氏の波乱に満ちたキャリアではなくホームズ氏のファッションでした。Theranosの元社員によると、ホームズ氏はジョブズ氏を意識して常に黒のタートルネックのセーターを着用し、Theranosの社屋の室温を18度前後に設定させていたとのこと。
カジュアルながらビジネスシーンにも見合ったスマートさを兼ね備えたタートルネックですが、その源流は馬に乗って楽しむ球技であるポロのプレーヤーが着たユニフォームだといわれており、伝統的にポロが嗜まれてきたイギリスではタートルネックを「ポロネック」と呼んでいます。19世紀後半に開発されたタートルネックは、その動きやすさから労働者や水兵らに好んで着用されていました。
肉体労働者の象徴だったタートルネックを、ファッションに昇華させた火付け役はイギリスの俳優で劇作家としても知られるノエル・カワードです。1920年代のファッションリーダーだったカワードが、タートルネックを着て舞台「The Vortex」に出演すると、タートルネックはたちまちファッション界で大流行しました。
また、スポーティッシュな男性のファッションだったタートルネックをユニセックスなアイテムにしたのは、カワードと親交が深かった女優のマレーネ・ディートリッヒです。人気歌手でもあったディートリヒは、1930年代初頭に男性的なスーツにタートルネックを合わせたファッションをまとった宣伝用写真を公開し、女性の間にタートルネックを浸透させました。
マレーネ・ディートリッヒ
by Ballistik Coffee Boy
こうしてタートルネックがファッションとして受け入れられるようになると、フランスのシャンソン歌手ジュリエット・グレコ、イタリア出身の俳優で歌手のイヴ・モンタン、ベルギーで生まれフランスで大成した歌手ジャック・ブレル、アメリカ合衆国出身のジャズトランペット奏者マイルス・デイヴィスといったアーティストらが好んでタートルネックを着るようになりました。また、1950年代に入ると、映画「パリの恋人」でフレッド・アステアと共演した女優のオードリー・ヘプバーンといったハリウッドスターもこうした流れに追随するようになります。
オードリー・ヘプバーン
by Robert Sullivan
1969年のハリウッドを舞台にした2019年の映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で、主演のレオナルド・ディカプリオが派手な黄色のタートルネックを着ているように、当時の映画界ではしばしば明るい色のタートルネックが好まれました。一方で、1997年に公開されたスパイ映画「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」に登場する悪役のメディア王エリオット・カーヴァーが登場シーンのほぼ全てで黒のタートルネックを着るなど、「黒のタートルネック」は知性や狡猾さを表すシンボルとしても浸透していきました。
2019年8月30日に封切りとなったワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの特報トレーラーは以下から見ることができます。
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』特報(8月30日公開) - YouTube
こうした中で、日本人デザイナーの三宅一生氏が手がけた「黒のタートルネック」を独自路線の象徴として活用するスティーブ・ジョブズ氏は、普通のビジネスマンとは一線を画すビジネス界のスターとして消費者に強い印象を与えるようになります。
by GodisAmerican
Artsyのライターであるディグビー・ウォード=アルダム氏は「もしジョブズ氏がMicrosoftのビル・ゲイツ氏やAmazonのジェフ・ベゾス氏のように普通のジャケットを着ていたら、私たちは彼を物珍しいCEO以外の何者かとして記憶していたでしょうか?」と指摘し、ジョブズ氏のファッション戦略が大きな成功を収めたことを強調しました。
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