スパイ映画のように任務完了後に自動消滅する素材が開発される
太陽光に当たると分解されて消滅する素材が新たに開発されました。この素材は分解開始までの時間なども調節可能で、軍事機器を敵に利用できないようにするなどの利用法に適していると報じられています。
Disappearing act: Device vanishes on command after military missions (video) - American Chemical Society
https://www.acs.org/content/acs/en/pressroom/newsreleases/2019/august/disappearing-act-device-vanishes-on-command-after-military-missions-video.html
開発された素材が分解するメカニズムは、その温度を超えるとポリマーがモノマーに戻るという「天井温度」を用いたもの。ポリスチレンのような一般的なポリマー素材は、数千もの化学的結合を有するため天井温度が高く安定するだけでなく、天井温度を超えて熱された場合でも分解に時間がかかるという特性を持っています。一方、新たに開発された素材の元となるポリマーは、1つでも結合が分解されれば他の結合も分解されていくという性質を持ち、天井温度も低く設定されているとのこと。
研究チームは新開発した「結合が連鎖的に分解され天井温度が低いポリマー」に、光を吸収して分解作用の触媒となる感光性の添加物を加えることで、「光が当たると分解される素材」を開発しました。さらに、添加物が反応する光の波長を変化させることで、「光なら何でも分解される」や「照明の光では分解されないが、太陽光で分解される」などの用途に応じた特性を持たせることも可能とのこと。加えて、分解開始までの時間を1時間・2時間・3時間と細かく設定することもできるそうです。また、詳しいメカニズムは明かされていませんが、研究チームは「反応を開始させるボタンを押しても分解させられる」と述べています。
この素材が実際に太陽光の元で分解されているムービーも公開されています。
Self-destructing Polymers Disintegrate in Daylight | Headline Science - YouTube
開発された素材をチョコレートのようなデコボコのついた板状に加工したものが以下。
まだ日光の元においたばかりの素材は、指でつついたり持ち上げたりしても硬さを失っていないことがわかります。
しかし、日を当て続けると、薄くなっている部分に穴が開いてバラバラになっていきます。
補給物資などを投下するための落下傘の形状にしたものが以下。
日差しの弱い朝7時でも分解反応が始まって溶けるようです。
以下の袋のような形状をした素材が……
完全に溶けるとこんな感じ。
溶けたスライスチーズのようなものが残ってしまいますが、原形は失われています。
この素材が組み込まれた軍事機器がすでに開発されているとのことですが、研究チームは軍事機器以外にも環境に配慮したセンサーや、回収が困難な地域に配備される配送用車両にこの素材を活用することを視野に入れているそうです。また、今回の研究はアメリカ国防総省の支援と資金提供を受けて行われました。
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