映画のクレジットから「VFX」がどのような仕事なのかを可視化、多様なアーティストたちの役割を分解するとこんな感じ
映画のクレジットは部門ごとにいくつかのブロックにわかれていて、マーベル作品のような規模の大きな映画に「ビジュアル・エフェクツ(VFX)」担当として何十人ものアーティストがそのブロックに名を連ねているのを見たことがある人もいるはず。一見すると名前が連なっているだけに見えるクレジットですが、クレジットを色づけするだけで「VFXとは一体どういう仕事なのだ?」ということがわかるようになる、として話題になっています。
Before Marvel’s post-credit scene: the Avengers VFX credits, explained - Polygon
https://www.polygon.com/2019/5/8/18531405/avengers-endgame-end-credits-visual-effects-artists
今やSF作品とは切ってもきれない関係にあるVFX。たとえばマーベルの「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」は2500以上のショットから構成されていますが、その中でVFXチームが手を入れていないショットはわずか80のみとのこと。しかし、クレジットに名を連ねるVFXアーティストたちが一体何をやっているのか?ということは、一般の人にはなかなかわかりません。そこで、TwitterユーザーのDradak [PPT]さんは2019年4月27日付で「アベンジャーズ/エンドゲーム」のクレジットを加工して以下のような画像を投稿しました。
The #VFX industry is massive and not all of us can get a proper credit for our work, so here's a small breakdown of every departments and artists involved from Framestore on #Endgame pic.twitter.com/RelqMtSd2q
— ????Dradak [PPT] (@DradakVFX) 2019年4月27日
この画像の中でDradak [PPT]さんは、フレームストアやインダストリアル・ライト&マジック、シネサイトといったVFX制作会社の主任やアーティストたちをふるいにかけ、それぞれの人を肩書ではなく「役割」で色づけ。やや黄緑色の「コンポジショニング」が多いのですが、カラフルなクレジットを見ると「VFX」という言葉の中にいかに多様な役割が詰まっているのかがわかります。
…………が、コアな映画ファンでない人は、これらのアーティストの仕事がどんなものか、わからないはず。ということで、エンタメ系メディアのPolygonが、VFXが完成に向かうまでの時系列順で、上記アーティストたちのそれぞれの仕事について解説しています。
◆1:Prep/Rotoアーティスト
SF作品の場合、役者がグリーンバッグの前で演技をして、それを別の映像と合成することが多々あります。Prep/Rotoアーティストは、グリーンバックの前で動くロバート・ダウニー・Jrを緑色の背景から精密に切り取る「ロトスコープ」の役目を持つ人のこと。VFXの初期段階の重要な作業を担っています。
by Pixource
◆2:トラッキング/マッチムーブ
マッチムーブは「Match(合わせる)」と「Move(動き)」を合わせた言葉で、「動きを合わせる」という意味合い。その名の通り、切り取った役者の動きと、合成する背景映像の動きを合わせるのがトラッキング/マッチムーブの役目です。2つがマッチしていないと、背景の上を役者が浮遊しているように見えてしまうので、トラッキング/マッチムーブもPrep/Rotoアーティストと並んでVFX初期段階における重要な役割です。
◆3:モデラー
CGキャラクターやクリーチャー、船、周囲の環境、衣服など、マーベルの映画に登場するさまざまなものがモデラーの手によって作られています。モデラーは彫刻家のようなもので、3Dモデルはソフトウェアを起点として作られることもあれば、コンセプトアートのようなよりゼロに近い状態から作られることもあります。
◆4:リギング
3DCGモデルに対して、アニメーションをつけるための設定を施すことをリギングと呼びます。モデルをよりリアルに動かすため、リギングを担当するアーティストたちはモデルに「デジタル骨格」を授けます。この作業は注目を浴びませんが、解剖学の知識などを要するものです。
by anaterate
◆5:アニメーター
3DCGが骨格を得たら、次は実際に動きを与える作業に入ります。アニメーターはキーフレームのアプローチを取りつつ、モーションキャプチャなどを使ってモデルに動きを付けていきます。これは映画の仕上がりに大きく関わる重要な作業。
◆6:テクスチャリング
3DCGモデルが動きを得たら、今度は「皮膚」や「衣服」に着手する段階。テクスチャー(質感)アーティストの仕事はモデルに色を塗っていくことで、アーティストたちは質感を得るために現実世界のものを利用することもあるそうです。
◆7:グルーミング
ビジュアル・エフェクトの中で最も表現が難しいものの1つに人間や動物の「毛」があります。グルーミングアーティストたちは、この「毛」の見た目や動きに特化しており、何百という毛の1つ1つに注意を払います。
◆8:クリーチャーFX
上記以外の動きやシミュレーションに関する細々とした作業をまとめて「クリーチャーFX」と呼びます。例えば筋肉のシミュレーションをモデルに加えれば、キャラクターが話したり歩いたりする時に適切な種類のゆらぎや揺れを加えることが可能。衣服や毛皮のシミュレーションもここに分類されます。
◆9:FX
爆発や水しぶき、スーパーパワーの表現などが、FXアーティストの領域。FXアーティストは現実世界の表現をデジタルで再現したり、液体や粒子のような多くのエフェクトを作り出します。
◆10:デジタルマットペインティング
デジタルのビジュアル・エフェクトが主流になる前、現実世界では撮影できない背景はアーティストたちが手描きで仕上げていました。デジタルが主流の現代でもこのような手法はデジタルマットペインティング(DMP)という名で用いられています。ただし、2Dではなくライブアクション写真や3Dツールを使って背景が描かれていきます。
◆11:ライティング
現実世界で映画を撮影する際には照明技師が適切な形で役者やセットに照明をあてていきます。たとえばマーベルの映画に登場するグルートは影や薄暗闇の中に登場するため、状況によって異なるライティングが必要で、これらを調整するのがライティング・アーティストの役目。ビジュアル・エフェクトにおいて、ライティングはレンダリングと連帯しながら行われることも多いとのこと。
◆12:合成
アイアンマンであれば、トニー・スタークが身に付けているアイアンマンスーツ、他のキャラクター、爆発、背景といったあらゆるエフェクトを最終的には1つに統合する必要があります。この作業は合成を担当するアーティストの仕事で、ライティングなどの要素の調整もここで行われます。シームレスな合成によって、ビジュアル・エフェクトなど一切関与していないような自然なシーンが作られます。
◆13:パイプラインTD
マーベル映画ほどの規模になると、多数のショットが複数のVFXスタジオによって処理されます。パイプラインTDのTDは「テクニカル・ディレクター」の略であり、スタジオによって異なるツールセットやコードセット、通信リンクなど、さまざまな要素を一致させる役目を担います。
◆14:編集
「VFXに編集が存在する」ということに驚く人もいるかもしれません。VFX編集者はVFXスタジオとメインプロダクションの仲介役となることがよくあり、作業中のシーンや完成したシーンを適切に扱い、施設内で映像を移動させたり、ショットの評価を行ったりします。編集者もまたVFXアーティストの一人です。
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