ゴルフボールの進化によってショットの平均飛距離が大きく増加している
ゴルフにおいて使用されるゴルフボールは直径1.680インチ(約4.3cm)以上、重さは45.93g以下と定められています。長らくゴルフボールの見かけは変化していませんが、実は外から見えないところでゴルフボールは大きな進化を遂げており、ゴルファーのプレイに大きな影響を与えていることを解説したムービーが、YouTubeで公開されています。
The golf ball that made golfers too good
アメリカ・ジョージア州にあるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブは、毎年4月上旬に開催されるマスターズ・トーナメントの開催コースとして有名です。そんなオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブの13番ホールは、フェアウェイが大きく左にカーブしています。
13番ホールではティーショットから少しずつ方向を変えていき、ホールにたどり着くのが定石。
しかし、PGAツアートップクラスの「飛ばし屋」であるバッバ・ワトソン氏は、2014年のマスターズ・トーナメントで驚くべき攻略法を見せたとのこと。
その様子がこれ。思いっきりスイングしたワトソン氏のショットは、左へとスライスし、ミスショットしたかに見えました。
当初は解説者もワトソン氏がミスショットしたとばかり思っていましたが、なんとワトソン氏のショットはコースを遮る木々を越え、ホール近くのグリーンに到達。
多くのゴルファーがぐるりと回って攻略するコースを、ワトソン氏はボールの飛距離を生かして大幅にショートカットすることに成功しました。
結局このショートカットもあり、ワトソン氏は2014年のマスターズ・トーナメントで優勝しています。
しかし、このワトソン氏の勝利を見て、一つの問題を提起する人々もいました。その問題とは、「近年のゴルフボールはあまりに飛びすぎるのではないか?」というものです。
ドイツ出身のプロゴルファーであるベルンハルト・ランガー氏は、1970年代からプロゴルファーとして活躍してきたゴルフ界の重鎮です。ランガー氏は2018年、ドライバーショットの平均飛距離が280ヤード(約256m)でした。
このスコアはランガー氏が30歳だった1987年と比較すると、実に20ヤード(約18m)も伸びているとのこと。このドライバー飛距離の上昇は一部のプレイヤーに限ったことではなく……
1980年以来、PGAツアーにおけるドライバーショットの平均飛距離は30ヤード(約27m)以上も伸びています。
このドライバー飛距離の上昇の原因とは、いったい何なのでしょうか。
ゴルファーのショットには体の状態やゴルフクラブ、ゴルフ場のコンディションなど、さまざまな要因が絡みます。
しかし、「ゴルフボール」が飛距離の増大に関係する最も大きな要因だとされており、多くのゴルフ関係者によって「近年のゴルフボールは飛びすぎではないか」とやり玉に挙げられています。
最も初期のゴルフボールはおそらく木製でしたが……
やがて球形に縫い合わせた生地の中に、髪の毛を詰めたゴルフボールが登場。
そしてつなぎ合わせた革の内部に羽を詰めたフェザリーボールが使われるようになり……
ついにガタパーチャという東南アジア原産の樹木から採れる樹脂を使い、ゴルフボールが作られるようになりました。
ガタパーチャを使ったゴルフボールを使うようになった人々は、「新品のきれいなゴルフボールよりも、傷が付いていたり強くたたかれてへこんでいるボールの方が遠くに飛ぶ」という事実に気がつきました。
人々は飛距離の増大を目指してゴルフボールにさまざまなパターンを描くようになり、やがて表面にディンプルと呼ばれる無数のくぼみがある場合、最も飛距離が出ることがわかりました。
ゴルフボールの表面にあるディンプルが空気の乱流を作り出してボールの周囲を保護し、抵抗をより少なくするとのこと。
しかし、ディンプルの発見は1980年よりもずっと昔のことであり……
近年の飛距離増大を説明する理由にはなりません。
中でも注目するべき変化は、2000年から2001年にある6ヤード(約5.4m)もの飛距離上昇です。
この上昇をもたらしたのは、「タイトリスト プロV1」というボールだとのこと。プロV1はゴルフ界に革命をもたらしたボールです。
プロV1の外見はほかのゴルフボールと変わりありませんが、中身に大きな違いがあります。
プロV1が登場する前の1世紀近く、標準のゴルフボールは「糸巻きボール」だったとのこと。
糸巻きボールとは内側がゴムの芯で、芯の外側に糸が巻かれています。時には糸部分に液体が満たされていることもあるそうで……
切り裂くと内部から液体が漏れてきます。
一方、プロV1を切り開いてみると、糸巻きボールとは全く違う「多層コア」になっていることがわかります。
プロV1が登場する以前、プレイヤーはゴルフボールを選択する際、飛距離の出る「ディスタンス系」か正確性の高い「スピン系」のどちらかを選ぶ必要がありました。ディスタンス系は固体のコアを持っており、スピン系は糸巻きボールでしたが……
プロV1の多層コアは飛距離と正確性を両立させることに成功したとのこと。固い内部コアは飛距離を増し、柔らかい外部コアはゴルファーがボールにスピンをかけてボールをコントロールすることを可能にします。
2000年以前はほとんどのプレイヤーが糸巻きボールを選択していましたが、多層コアボールの登場以降は次第に多層コアボールを使用するプレイヤーが増加し、近年ではほぼ全てのプロゴルファーが多層コアボールを使用しています。中でも2000年から2001年にかけての使用率増加は著しく……
これはドライバーショットにおける6ヤードの平均飛距離増と関連しているとのこと。
2017年のレポートでは、平均飛距離の増加についての懸念が示されており……
あまりにもプレイヤーの飛距離が伸びすぎると、コースの難易度を上げるために用意されたギミックのほとんどを、とにかく遠くに飛ばすことで回避されてしまう可能性が出てきます。
ゴルフボールの重量や素材などに規制を設けることで、ゴルフボールの飛距離を縮めることは可能ですが……
多くの投資と研究を行ってゴルフボールの飛距離増加に取り組んできたメーカーは、当然ながら規制に反対するとみられます。しかし、「この飛距離増加問題が、ゴルフというゲームを崩壊させることにはならない」という意見もあります。
実は、「近年のゴルフボールは飛びすぎる」という話題は非常に古くから議論されており、1936年にも同様の問題が議論されていたとのこと。
コース側でも平均飛距離の増加にあたってさまざまな対策を取っています。たとえばワトソン氏が攻略したオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブの13番ホールでは……
ティーショットの位置を後方にズラすという変更がなされました。
このようにして、飛距離の増加に合わせてコースの肝である左への回り道を維持することに成功しています。いくらゴルフボールの飛距離が伸びようとも、ゴルフ場の方が知恵を絞ることで、ゴルフとしての楽しさを損なわずにすむかもしれません。
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