サイエンス

マウスの目にナノ粒子を注入して見えないはずの赤外線光を見えるように改造することに成功

by jarleeknes

通常、人間は波長の長い光を赤色光として知覚していますが、760~830ナノメートルほどが人間の感じ取れる光の上限であり、これ以上波長の長い光は知覚することができません。感知するには長すぎる波長の光は赤外線と呼ばれ、人間だけでなくマウスをはじめとする多くの哺乳類も赤外線を感じることができませんが、中国の研究者はマウスの網膜に特殊なナノ粒子を付着させることで、通常は視認できないはずの赤外線光を見えるようにマウスを改造することに成功したと報告しました。

Mammalian Near-Infrared Image Vision through Injectable and Self-Powered Retinal Nanoantennae: Cell
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(19)30101-1

Nanotech Injections Give Mice Infrared Vision - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/science/archive/2019/02/nanotech-injections-give-mice-infrared-vision/583768/

自然界でもヘビや一部の魚には赤外線を感知する器官が存在していますが、人間やマウスは赤外線を感知することができません。一方で赤外線カメラを利用したり特殊なゴーグルを着用したりすれば人間でも赤外線を見ることが可能であり、過去には赤外線を感知できる特殊なコンタクトレンズを使い、ポーカーでイカサマを行ったという事例も報告されています。

赤外線コンタクトレンズを使ってポーカーでイカサマが行われる - GIGAZINE


中国科学技術大学Tian Xue生命科学教授が率いる研究チームは、赤外線の光を人間やマウスが視認できる緑色光に変換する特殊なナノ粒子を開発。ナノ粒子をマウスの網膜にある視細胞に付着するように設計し、マウスの目に注射しました。ナノ粒子を注入されたマウスの目に赤外線光を照射すると、瞳孔が赤外線に反応して収縮したとのこと。これは、マウスが通常は見えないはずの赤外線光を感知して、それに反応したことを示しています。

そして研究チームは特殊なナノ粒子を注入したマウスと、対照実験としてナノ粒子の入っていない溶液を注入したマウスを2つの部屋があるケースに入れました。片方の部屋は何も光がない暗闇、もう片方の光には赤外線光を照射した状態にしてマウスの滞在時間を計測したところ、ナノ粒子を注入されたマウスは赤外線光を嫌がり、純粋な暗闇の部屋で過ごすのを好んだとのこと。一方でナノ粒子を注入されなかったマウスは赤外線光に気づかず、どちらの部屋でも均等に過ごしたそうです。

また、明るい場所でマウスを水の入ったY字型ケースに入れ、赤外線光で示された安全なスペースにマウスが気づくかどうかという実験も行ったところ、ナノ粒子を注入されたマウスは安全なスペースに気づくことができました。しかし、ナノ粒子を注入されなかったマウスは安全なスペースに気づけなかったとのこと。

by freestocks.org

Xue氏が利用しているナノ粒子は、もともとマウスに赤外線光を認識させるという目的で作られたものではありませんでした。21世紀に入ってから、生物研究者たちはニューロンに光感受性分子を注入する方法を考案し、光によって生物の細胞を制御する光遺伝学という分野を生み出しました。光遺伝学は多くの科学研究を進展させ、脳疾患の治療にも応用できるのではないかとみられています。

そんな光遺伝学に使用される光感受性分子は青色または黄色の光に反応しますが、これらの光は生物の皮膚や筋肉によってブロックされてしまいます。そのため、光遺伝学の操作を行うには侵襲性の光ファイバーを使うか、生体内にLED装置を埋め込む必要があるとのこと。一方で近赤外線光はほんの数ミリメートルですが生体内を進むことが可能であり、光遺伝学における操作をより簡単にする可能性を秘めているそうです。

そこでマサチューセッツ大学医学部のGang Han氏は、赤外線光を吸収して可視光である緑色光を放出するナノ粒子を開発しました。光変換を起こすナノ粒子を用いた非侵襲性の新しい光遺伝学の手法は、理化学研究所などの研究グループによって発表されています

by geralt

Han氏はマウスの視覚を研究していたXue氏とこのナノ粒子について話していた時、「このナノ粒子をマウスの目に注入したらどうなるのだろうか?」という疑問を持ったとのこと。そこでHan氏はナノ粒子を網膜に付着させるためにコンカナバリンAというタンパク質でナノ粒子を強化し、マウスの目に注入したところ、網膜の視細胞上にナノ粒子のレイヤーが形成されたそうです。

今回の研究はあくまでも「赤外線光を緑色光に変換する」ことを可能にするものであり、マウスは本質的に赤外線光を赤外線光として認識しているのではなく、通常の緑色の光との違いを見分けられないだろうと考えられています。サウスカロライナ大学の眼科医であるLan Yue氏は、「マウスが緑色光との混乱を来さずに赤外線光を認識できるのかどうかは、非常に興味深い点です」と述べています。

Han氏は「赤外線ゴーグルは重く、バッテリーを必要とします」と話し、直接網膜に働きかけることで従来よりも優れた赤外線光識別が可能になると考えています。「ナノ粒子の含まれた点眼薬を服用することで、その人にしか見えない特殊な赤外線光パターンを認識できるようになるかもしれません」とHan氏は話しました。

by Rebecca Swafford

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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