新聞や雑誌のブラックリストに載ったジャーナリストが立ち上げた独立メディア「Quillette」とは?
オーストラリアのオンラインマガジン「Quillette」は、クレア・レーマン氏が立ち上げたリベラル系ニュースフォーラムで、#MeToo運動などのフェミニズムや、反トランプ運動などの左翼的思想に対抗する保守的メディアとして知られています。レーマン氏がなぜQuilletteを立ち上げたのかが、政治メディアのpolitico.comで紹介されています。
The Voice of the ‘Intellectual Dark Web’ - POLITICO Magazine
https://www.politico.com/magazine/story/2018/11/11/intellectual-dark-web-quillette-claire-lehmann-221917
2015年にQuilletteを立ち上げたとき、レーマン氏は妊娠中で、心理学の修士号をあきらめたばかりの頃でした。彼女はフェミニストを自称していて、「母親の休暇」や「介護者としての女性の役割に焦点を当てた政策」を重要視していました。一方で、世間一般で語られる「フェミニズム」に対して批判を行いたいという論調を新聞で繰り広げようとしたところ、フェミニストの猛反対を受け、ブラックリストに載ってしまい、オーストラリア内の新聞や雑誌への寄稿が一切できなくなってしまったとのこと。
そこで、レーマン氏は「自由思想のためのプラットフォーム」というキャッチコピーで、Quilletteを立ち上げました。Quilletteはとりわけ先進的な心理学・社会学の学術レポジトリとして、学者が自由にアイデアを公開するためのスペースを提供しています。Quilletteは、編集長であるレーマン氏と、リモートで在宅作業を行う3人の編集者によって運営されていて、広告収入ではなく、クラウドファンディング・プラットフォームであるPatreonを収入源としています。
2017年8月、科学的根拠のないフェイク論文が雑誌に掲載されているとウォール・ストリート・ジャーナルが大々的に報じました。論文の内容は「フェミニズムの観点からヒトラーの『わが闘争』を読む」「ドッグショーに見られる犬と飼い主の分析からのレイプ文化の分析」など、一見して荒唐無稽だと分かるもの。一連のフェイク論文は、実はレーマン氏の友人が仕掛けたいたずらでしたが、無意味な論文が真面目な研究として学術誌に掲載されていることは、報じられるまでほとんどの人が問題視していませんでした。レーマン氏は、この「いたずら」は政治的になっている学界がはたして機能しているのか、盲信している倫理観念がどれだけ上っ面だけのものなのかを明白にするための「声明」だと述べています。
また、レーマン氏はQuilletteでもこの事件を取り扱い、大きな反響を得ました。Quilletteは、知的好奇心は旺盛ながら、大学や左派の融通の利かない政治思想を疎ましく思っている読者や思想家にとって居心地のいい場所として機能しています。
Quilletteは毎週7~10の記事を掲載していて、その中でも性差別の現実やポストコロニアル理論などが特によく取り扱われているテーマとなっています。例えば、2017年8月にGoogle内で「女性はコーディングに向いていない」としたメモが社内MLで出回った事件で、メモを書いたジェームズ・ダモア氏を擁護する記事を公開したところ大炎上し、何者かのDDoS攻撃を受けてサーバーが落ちたそうです。
今やレーマン氏は多くのフォロワーを抱え、オーストラリアの言論界の急先鋒という形でもてはやされていますが、レーマン氏自身は自分がジャーナリストだとは考えていないとのこと。Quillette上で展開されるさまざまな議論の部外者だと自認しているレーマン氏は、友人に「自分は政治にあまり興味がない」と述べていて、自分自身を「中道主義者」と表現しています。
レーマン氏は、「科学的な議論に向けてもっと志向的になると思った」と話し、Quilletteが最初に想像していたものと違う方向に進んでしまったと認めています。また、Quilletteが「民族主義のようなもの」「人種差別主義的、嫌悪感のある視点」へ向かうことは望んでいないと述べています。それでも彼女がQuilletteを運営し続けるのは「例え危険視されるようなものでも、科学的なアイデアはリスペクトすべき」という考えがあるからとのこと。
「私が極右だという前提で話す人もいますが、それは間違った表現です。私はオーストラリア人だから、日常的な健康管理や中絶へのアクセスなどたくさんのことを受け入れているし、どこにでも銃を持っていくわけではありません」とレーマン氏は語ります。politico.comは、レーマン氏がオーストラリア人だからこそ、アメリカの政治に対して感情的にならず、アメリカの「病状」をよりしっかり診断することができると評価しています。「オルタナ右翼の言論はQuilletteの主流思想ではありません。私たちは、高度な教育を受けながら、オープンで心が穏やかで少し変わっているような人たちを相手にしていたいというだけです」とレーマン氏は語っています。
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