生き物

「世界最古の生命」が危機的状況にある


アメリカ・ユタ州にあるフィッシュレイク国立公園には、ほとんどの人が「木」と認識するには困難な白樺に似たポプラ系の木「アスペン・ツリー」が存在します。「パンド(Pando)」とも呼ばれるこの木は科学者が「数千年から8万年ほど生きている」と推定するほど長生きしている生命なのですが、そんなパンドが今、命の危機を迎えています。

Pando, the Most Massive Organism on Earth, Is Shrinking - The New York Times
https://www.nytimes.com/2018/10/17/science/pando-aspens-utah.html


Pando, the world's largest organism, is dying thanks to humans — Quartz
https://qz.com/1428649/pando-the-worlds-largest-organism-is-dying-thanks-to-humans/

ユタ州のフィッシュレイク国立公園に存在するパンドは、単一の木の根茎から生まれたクローンツリーが約4万7000本も生えてできた樹林です。ひとつの木から生まれた巨大な生命と考えられ、推定樹齢は「数千年から8万年ほど」ともされるほどの、地球上最古の生命のひとつであるといわれています。

地球上で最も古くから生きているものとは? - GIGAZINE


なんと約4万7000本もの樹林を持つパンドですが、年々減少していると新しい研究論文で報告されています。

Mule deer impede Pando’s recovery: Implications for aspen resilience from a single-genotype forest


論文では最新の地上調査および過去72年分の航空写真を使用して、106エーカー(42万9千平方メートル)、総重量1300万ポンド(約590トン)という超巨大なパンドを分析。その結果、パンドが年々減少してきていることが明らかになっています。この減少は、フィッシュレイク国立公園内に生息する鹿や牛をしっかり管理しなければ、さらに続くことが予想されます。

ユタ州立大学のエコロジー学者であり、調査を行った張本人でもあるポール・ロジャーズ氏は、「パンドは何千年もの間にわたって成長してきた樹林ですが、今、我々人間のせいでその生命に危機が訪れています」と語っています。パンドがこれほど巨大になった理由についてはまだまだ謎が多く、クローンツリーの影響や、フィッシュレイク国立公園の平らな土地が影響しているのではないかと言われています。


単一のアスペン・ツリーがクローンを増やして樹林となるケースはパンドが唯一の例ではありません。パンドほど大規模なものは珍しいものの、北アメリカではパンドのようなアスペン・ツリーのクローンでできた樹林がいくつか存在するそうです。アスペン・ツリーは種からではなく、地中の根茎から直接生えてきます。単一の根茎から数千あるいは数万ものクローンツリーが生えており、アスペン・ツリーは何かしらの損傷を受けると幹にホルモン信号で「クローンを作る時だ」と指令を出し、新しいクローンツリーを作るとのことです。

パンドはクローンを増やして生き続けてきたため、遺伝的多様性が欠如していることは明らか。パンドはただただ年齢の異なるクローンツリーを生やし続けることで、その多様性の欠如を補ってきたといえます。

しかし、最新の調査によるとパンドの中の古いアスペン・ツリーが損傷したり死んだりしていても、比較的若いクローン・ツリーが生えてきていないことが明らかになっています。つまり、これまではクローンを作り出すことで損傷と再生を繰り返してきていたパンドの再生部分だけが止まり、全体の本数が減少してきているというわけです。


研究を行ったロジャーズ氏とダレン・マカボイ氏は、「パンドの状況を人間の共同体で例えると、人口4万7000人の町に85歳の高齢者しかいないようなものだ」と語っています。2人はパンドが減少している理由について、フィッシュレイク国立公園に生息する鹿や放牧されている畜牛が、若いクローンツリーを食べてしまっているからだろうと推測しています。特に、半世紀の間にキャンプ場や電話回線などが増え、動物の放牧なども解禁されており、その影響でパンドが徐々に減少していることが航空写真を分析するとよくわかるようになっているとのこと。

パンドの減少を止めるための手立てとして、鹿がパンドの広がるエリアに入れないようにするフェンスの設置が進められています。このフェンスの設置の他に、鹿や畜牛の数を制限することが、パンドの減少を防ぎ、世界最古の生命を守ることにつながると考えられています。実際、パンドの一部をフェンスで適切に囲み管理したところ、樹林は数年で数メートル成長したそうです。


ロジャーズ氏は「パンドを救うことができれば世界中で数百から数千もの種類を救うことにも役立つ」と語っています。

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in 生き物, Posted by logu_ii

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