地球に衝突するかもしれない小惑星「ベンヌ」を探査機で調査すべき10の理由とは?
1999年に発見された太陽系の小惑星ベンヌ(Bennu)は平均直径560メートルほどの天体で、今後200年ほどの間に何度も地球に接近し、最悪の場合は衝突する可能性すら存在します。2016年9月にはNASAの探査機「オシリス・レックス」が打ち上げられ、日本の探査機「はやぶさ」のようにベンヌの惑星表面から採取した試料を地球に持ち帰る予定なのですが、この宇宙に浮かぶ小さな小惑星を探査する必要がどこにあるのかをNASAが10個の項目にまとめています。
Why Bennu? 10 Reasons – Solar System Exploration: NASA Science
https://solarsystem.nasa.gov/news/517/why-bennu-10-reasons/
◆01:地球に近いところにあるため
ベンヌは、地球と火星の中間に属する大きさの軌道を持つアポロ群に属する小惑星です。アポロ群の小惑星は地球に接近するという潜在的な脅威性を持つことで知られており、ベンヌはその中でも接近する可能性の高い小惑星であると考えられています。
しかしこれは裏を返せば「地球に非常に近い天体」であると考えることができ、小惑星探査を実施する上では大きなメリットにもなります。そんな特長を持つベンヌを調査する探査機オシリス・レックスは2016年9月に打ち上げられたのち、地球の重力を利用する「重力スイングバイ」を行ってベンヌを目指しており、2019年から2020年にかけて到着する予定となっています。
◆02:ちょうど良い大きさの天体である
小惑星の多くは地球のように自転を行っています。地球の自転周期は24時間ですが、直径が200メートル程度の小惑星の中には1分間で数回転も自転しているものも存在します。このような天体に探査機が近づいてサンプルを採取するのは極めて困難で、しかもオシリス・レックスが採取を目指している地表の堆積物「レゴリス」が自転による遠心力で失われている可能性もあります。
直径が平均で500メートルほどもあるベンヌの自転周期は4.3時間とゆっくりしたものであるため、探査機が接近して作業を行うのにうってつけです。
◆03:非常に古い天体である
ベンヌは太陽系が形成された時から存在している天体と考えられています。太陽系の歴史を詳細に知るためには、ベンヌのような天体を調査することが最も有効な方法です。地球においても、宇宙から降り注ぐ隕石などで宇宙の姿を見ることは可能ですが、多くの場合は大気圏突入時の熱や大気の影響、地球の環境などによって隕石そのものが「汚染」されてしまうため、ありのままの姿を見ることはできません。そのため、宇宙空間にある小惑星に到達し、ありのままの姿を調査することが重要です。
◆04:過去の姿が保存されている
前項と一部重複しますが、ベンヌは約50億年前に太陽系の形成が始まった頃の姿を真空状態の宇宙空間でそのまま保存している「タイムカプセル」であると考えられています。
◆05:生命の起源となる物質を含む可能性がある
地球望遠鏡と宇宙望遠鏡を使った観測では、ベンヌは炭素質の、もしくはさらに炭素を多く含む小惑星であることがわかっています。そして、炭素は生命が誕生する上において非常に重要な物質です。ベンヌには生命を構成する有機分子が豊富である可能性が高いだけでなく、生命にとって重要な要素「水」が鉱物の中に閉じ込められている可能性も高いとのことです。
◆06:貴重な資源を有している
小惑星には、鉄やアルミニウムなどの天然資源や、プラチナなどの希少金属が豊富に含まれています。そのため、宇宙開発を行う民間企業や、場合によっては国家までもがそのような資源を抽出するための技術の開発に取り組んでいます。そのような資源を利用できるようになれば、人類は小惑星の土壌から水を抽出し、水素と酸素に分解することによってロケット燃料を作ることも可能になり、火星やそれ以遠の天体を目指す時の「燃料ステーション」として活用できるようになるかもしれません。
◆07:他の小惑星の理解につながる
ベンヌが1999年に発見されて以来、天文学者は地球からの観測でベンヌの調査を行ってきました。その結果、ベンヌに関する多くの物理的・化学的性質についての知識が得られましたが、その知識は小惑星の観察だけではなく、地球に降り注いだ隕石の研究を組み合わせることで知識のギャップを埋めることでも得られています。オシリス・レックスが採取する予定のサンプルから得られる詳細な情報を理解することで、人類は予測モデルと実際の姿の相違がどの程度あるのかを理解し、さらには他の天体に関する理解をさらに深めることにもつながると期待されています。
◆08:太陽光により生じる「力」の解明
これまでの観測データから、ベンヌの軌道は毎年280メートルずつ変化していることが明らかになっています。これは、太陽光で温められた地表からの熱放射の不均一性により生じる回転力(モーメント)により、小天体の軌道が影響を受けるというヤルコフスキー効果によるものと考えられています。オシリス・レックスは、ベンヌの地殻でヤルコフスキー効果の様子を計測することで、今後のベンヌの軌道を理解することにも役立てられます。
◆09:地球に近づけないようにするため
冒頭で述べたように、今後ベンヌは地球に大きく近づくことが予測されています。ヤルコフスキー効果を考慮すると、ベンヌは2135年には月よりも近い軌道で地球に接近すると予測されているほか、その後の2175年と2195年にかけてはさらに接近するものとみられています。それでもベンヌが地球に衝突する確率は全ての接近イベントの合計でも最大0.07%であると計算されており、衝突のリスクは低いのですが、オシリス・レックスからのデータは人類の子孫が小惑星の衝突リスクを理解し、対策を取るために役立てられると期待されています。
◆10:採取したサンプルを世界中の科学者に分け与えるため
ベンヌが採取したサンプルは2023年9月24日に地球に帰還し、アメリカのモハーヴェ砂漠に着陸する予定です。サンプルのうち、4分の1はオシリス・レックスの研究者チームの手に渡りますが、残りは世界中の科学者が利用できるようにされるほか、まだ開発されていない将来の技術を使った分析に役立てられるために、一部は保存されることが決まっています。またNASAは、日本のJAXAとの間で「オシリス・レックス」と「はやぶさ2」が採取したサンプルをシェアする協定を結んでいます。
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