世界初、デジタル技術でエンジンバルブを完全制御する「Intelligent Valve Actuation」が開発される
ガソリンエンジンやディーゼルエンジンにまず間違いなく装備されている吸排気バルブを電気モーターの力だけで動かす「インテリジェント・バルブ・アクチュエーション(Intelligent Valve Actuation:IVA)」システムが、イギリスのエンジニアリング企業「Camcon Automotive」によって開発されました。従来のエンジンではクランクシャフトの回転を取り出してバルブを駆動していましたが、IVAでは金属バネすら用いずに電気モーターの回転を制御することで自由に操れるようになっています。
World's first fully digital valves open up engine possibilities
https://newatlas.com/camcon-digital-iva-valve-system/55827/
IVAは、Camcon Automotiveが「既存のエンジンと完全に互換性がある装置」を念頭に開発を進めてきたもの。以下の写真はエンジン全体ではなく、カム機構がまとめられた「シリンダーヘッド」にあたる部分のものです。吸気側のバルブだけをコントロールするための装置で、通常のシリンダーヘッドであれば長手方向に1本または2本の「カムシャフト」が貫通してバルブを駆動するようになっていますが、このIVAのシリンダーヘッドにはそのような機構はなく、かわりに8つの回転部が内蔵されています。
横から見ると、向かって右側に電気モーターが取り付けられていることがわかります。電気モーターには制御用の電気ケーブルが取り付けられ、電装系を収めたシリンダーヘッド上部のケースに接続されています。
以下のムービーでは、IVAがどのような仕組みで動くのかを少しだけ垣間見ることが可能です。
Intelligent Valve Actuation - Petrol engine, diesel efficiency - YouTube
Camcon Automotiveのコマーシャル・ディレクターを務めるマーク・ゴスティック氏。「IVAは、従来のカムシャフトを取り去ってデジタル制御による自由度の高いバルブコントロールを可能にするものです。内燃機関に残されているアナログな仕組み『吸気』をデジタル化します」と述べています。
ヘッド部に内蔵される電装系。これまでもバルブを電子制御する考え方は存在し、スイスの自動車メーカー・ケーニグセグの姉妹企業「FreeValve」のように一部が電気化されたシステムが発表されていました。しかし、IVAは金属バネを一切使わない「完全電気駆動バルブ」というのがウリだそうです。
Camcon Automotiveのテクニカル・ディレクターのロジャー・ストーン氏はIVAのメリットについて、「非常に自由度の高いバルブコントロール」を挙げています。ホンダの「VTEC」に始まった可変バルブタイミングシステムはエンジンの回転数に合わせて最適なバルブタイミングに近づけることを可能にしてきましたが、「カムシャフト駆動」という制約からは逃れられていませんでした。
IVAはその制約を完全に排除し、「バルブを開けたい時に開けたい量だけ開け、閉めたい時に閉める」ということを思いのままにすることを可能にします。
駆動部はこんなイメージ。向こう側にある高トルクモーターから伸びた駆動シャフトがバルブを押し下げ、引っ張り上げるようになっています。この、金属バネを用いずにバルブの開閉をコントロールする仕組みは「デスモドロミック機構」と呼ばれます。
バルブの開閉タイミングはモーターの回転でコントロールされる一方、バルブの開閉量(=リフト量)は、駆動シャフトの回転角によって制御されるとのこと。バルブを100%開けたい時は駆動シャフトを360度回転させる一方、50%や10%などと少しだけ開けたい場合は、駆動シャフトをフルに回転させず、例えば0度から120度まで回転させることでバルブを少しだけ開け、閉じる時にはモーターを逆回転させることでそのまま閉じるようになっているそうです。
8つ並んでいる一番大きな円形の部品が、駆動シャフト。反対側は高トルクモーターにつながっており、シャフトを自由自在に正逆転させることで、望みのバルブ開閉タイミングとリフト量を実現するようになっています。
Camcon Automotiveは、ジャガー・ランドローバーと連携してIVAの開発を進めており、すでにジャガー・ランドローバーのエンジン「Ingenium」にIVAを装着した状態で1000時間以上の実証実験を進めているとのこと。吸気側にIVAを搭載した状態で試験運転を行ったところ、CO2排出量で7.5%の改善がみられ、燃費性能も向上したとのこと。さらに、今後さらに調整を進めることで最大で20%の性能向上も期待できるとしています。
IVAはバルブの動きを文字どおり完全に自由に操れるようになるため、従来よりもエンジンの効率を高めることを可能にするとのこと。エンジンの回転数に応じたバルブコントロールはもちろんのこと、エンジン始動時に必要なバルブだけを動かすことで抵抗を減らして効率を上げることなども可能。さらには、バルブタイミングをコントロールすることで4ストロークエンジンを2ストロークエンジンに近い状態で運転させて効率を高めたり、逆に「12ストロークエンジン」を実現することでこちらも効率を高める、などの用途が考えられています。そしてもちろん、ハイブリッド車に用いられるエンジンの効率を上げることも可能であるとのこと。
なお、「電気式バルブコントロール」のアイデアは以前からも存在していましたが、このタイミングでIVAが実現されることになったきっかけは「それを実現するだけの技術や電子機器が発達してきたから」であるとのこと。世の中が電気自動車(EV)へと大きくシフトする動きを見せている自動車の世界ですが、まだまだ従来型の内燃機関にも性能向上の余地は残されているようです。
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