夜寝ている間に脳に刺激を加えると記憶力がアップすることが判明
夜に寝ている間、人間の脳の中では海馬に蓄えられた短期記憶の情報を側頭葉に移すことで長期記憶として定着させるという作業が行われています。この記憶のメカニズムに関する最新の研究からは、寝ている時の脳に電気的な刺激を加えることで記憶定着のメカニズムを強化して、記憶力をアップできることが明らかになってきています。
Closed-loop slow-wave tACS improves sleep dependent long-term memory generalization by modulating endogenous oscillations | Journal of Neuroscience
http://www.jneurosci.org/content/early/2018/07/23/JNEUROSCI.0273-18.2018
Overnight brain stimulation improves memory: Non-invasive technique enhances memory storage without disturbing sleep -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/07/180723142907.htm
この研究は、ニューメキシコ大学のNicholas Ketz氏とPraveen Pilly氏らの研究チームによって実施されたものです。研究はアメリカ国防省の資金提供を受けて実施され、健康な人の集団と病を患っている人の両方の集団で記憶力改善に関する調査が行われています。
前述のように、人間の脳では側頭葉に情報を移すことで長期記憶が作られます。「海馬に蓄積された短期記憶を側頭葉に移す」際、脳内では非常にゆっくりとした周期の脳波が作り出されているのですが、この脳波とぴったり一致した電気刺激を外部から脳に与えることで、記憶機能を強化することが可能であることを研究チームが明らかにしました。
実験ではまず、被験者に対して「爆発物」や「狙撃兵」など、自分に対して脅威を与える可能性がある対象物を見つけ出すというタスクを与えました。次に、被験者には一晩の睡眠をとらせたのですが、その際に被験者は2つのグループに分けられ、片方のグループは何もつけずに、もう片方のグループには、頭の外側から電気刺激を与えるための装置を装着した状態で就寝させました。
刺激装置は頭部に針などを刺すことなく脳に刺激を与えることが可能な「非侵襲的脳刺激技術」を用いたものです。研究チームはこの装置を使って、1秒間に0.5~1.2サイクル(0.5~1.2Hz)という非常にゆっくりとした周期を持つ電気信号の刺激を与えました。この時、電気信号は実際の脳波に周波数と位相がピッタリ一致する状態で脳に加えられているとのことです。
このようにして2つのグループに対して睡眠をとらせた翌日に、被験者は前日と同じようなタスクを与えられました。タスクの内容は前日と同じく「危険物を見つけ出す」というものですが、その際に与えられる状況は前日とは異なるものが選ばれています。両グループにタスクを実行させたところ、寝ている間に電気刺激を受けたグループは、そうでないグループに対してよい結果を残すことが判明しました。つまり、電気刺激を受けたグループの脳には前日の記憶がより強く残っており、その記憶をもとに危険から身を守る判断を下すことができたというわけです。
研究チームでは、この技術は睡眠を妨げることなく記憶力を改善することが可能であることを示すものであると考えているとのこと。日々の生活での記憶力に悩んでいる人はもちろん、何らかの障害で脳機能の一部が低下している人の記憶力を回復させることなどが期待されています。
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