「セーラームーン」にはアニメと実写が混在する幻の「アメリカン・セーラームーン」が存在する
武内直子のマンガ「美少女戦士セーラームーン」は複数回にわたってテレビアニメ化された人気作品で、日本を飛び出して世界の多くの国で親しまれる作品となっています。いま世界で知られているセーラームーンは、日本で制作されたアニメ作品をそのままテレビで放映したものなのですが、実はアメリカでセーラームーンの放映が本格的に始まる前のタイミングで制作された「幻のセーラームーン映像」が存在しています。
We Tried To Uncover The Long-Lost 'American Sailor Moon' And Found Something Incredible
https://kotaku.com/we-tried-to-uncover-the-long-lost-american-sailor-moon-1827695456
アメリカのセーラームーンファンの間でも「幻の映像」と認識されているのが以下のムービー。かなり雑な作りになっているようですが、それはこの映像が本放送に向けた「デモ版」として作成されたという由来にありそう。アメリカ人にとってもこの映像が持つ破壊力はかなりのものであるようで、モニターの周りで見ている観衆が大声を出して笑っている様子がわかります。
Sailor Moon USA Openning - YouTube
映像を制作したのは「Toon Makers」という名前の企業。
冒頭では、「セーラームーン」という名前からか、さまざまな惑星が映し出され……
次に表れたのは、時代を感じるヘアスタイルのティーンエイジャー。
そして軽快なポップソングをBGMに映し出されたのが、セーラームーンこと月野うさぎと思しきキャラクター。
女の子たちは、アメリカの典型的な女子高生として描かれているようです。
何やら雰囲気の違うアルテミスが登場
そして、実写の白猫がアルテミスとして登場。
勢ぞろいしたセーラー戦士。しかしその世界観は日本のセーラームーンとは全く異なり、アメリカのアクション系アニメのような雰囲気が漂っています。
みんなで力を合わせているような様子のほか……
車いすに乗った人物も登場。これは、アメリカ社会が持つ多様性を反映することが求められた「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)」の考え方が反映されているものだそうです。
最後にロゴが表示されて映像は終了。再生されている間、見ていた人物はずっと笑っていました。
ネットメディアのKotakuが公開した以下のムービーでは、前出の映像に加えてもう一本の「幻の映像」の一部が収められています。「Team Angel」というタイトルが付けられた実写バージョンは、アメリカでセーラームーンの放映が始まったあとの1998年に制作されたものとなっています。
The Lost American Sailor Moon - Team Angel - YouTube
Toon Makerによるアメリカ版セーラームーンでは、月野うさぎはこんなふうに変貌を遂げ……
火野レイは、涼しげな目元の随分と大人なセーラー戦士に。
愛野美奈子は完全に別人格で、髪の色も全く違います。
水野亜美になると、これはもう完全に白人のアメリカ人女性の雰囲気
木野まことは、アフリカ系アメリカ人の設定になっていた模様です。
アルテミスは元の雰囲気を残しつつも、やはりどこかアメリカンで「日本じゃない感」が漂います。
そして驚きは、このバージョンはアニメと実写が入れ替わるという点。普段はアメリカの典型的な女子高生である主人公ですが……
スルリと変身すると……
アメリカンなセーラームーンに変貌するというわけです。
ムービーには、もう一本の幻の映像「Team Angel」の制作に携わったフランク・ワード氏が登場。かつて「バンダイ・アメリカ」の社長を務めた人物で、アメリカでセーラームーンを制作する権利を保有していたそうです。
Kotakuの取材を受けたワード氏は、自宅のガレージの中に20年前のビデオテープがあることを発見。ケースのラベルには、Toon Makerと共に映像の制作を進めた「Renaissance Atlantic」という社名と「Team Angel」というタイトル、そして「フルレングス(カットなし)の完全版のプロモーション映像」であること、時間が「2分40秒」であること、そして作成日として「1998年2月19日」という日付が記されています。
こちらの映像は、前出の映像よりは高めのクオリティで制作されている模様で、全て実写版となっています。どこか安っぽさも漂う映像にはまずキャラクターを演じる女優が登場し……
セーラームーンであることを匂わせるアイテムが登場。
きらびやかな背景に、あからさまな合成映像でのせられたセーラームーン。
Team Angelのセーラー戦士たちは4人編成。これまたオリジナルな決めポーズを繰り出し……
さまざまな人助けを行います。
山で遭難しかけた人を救い……
火事から住人をレスキュー。
銀行強盗がいれば……
現場に急行して、手からビームを放出。
そして見事に強盗を確保。「月にかわっておしおきよ」と言ってる様子はなさげです。
民家に竜巻が接近した時は……
空に向けてビームを放出
すると竜巻は姿を消し、住民は命を救われました。
現場には、Team Angelの痕跡を示すスターが残されていました。
このセーラームーンが作られた時代は、日本の戦隊モノをベースにした「パワーレンジャー」がアメリカで人気を博した時代とリンクします。当時のアメリカには「男の子向けのヒーローもの」はありましたが、「女の子向けのヒーローもの」がなかったため、そこに狙いを定めたためにこのような映像になっていたとのことです。
Kotakuの記者は当初、冒頭の実写+アニメのハイブリッド版セーラームーンを作成したのがワード氏であると考えていましたが、実際にワード氏が所有していたテープを確認したところ、ワード氏が携わっていたのは「Team Angel」であったという結論に行きつきました。その後、関係者を次々にあたってみるも、ついにハイブリッド版セーラームーンの出どころを突き止めるには至らなかったそうです。
しかし、ハイブリッド版セーラームーンのセル画はネットオークションで入手できる状態になっているとのこと。eBayでは、内容の種類によって100ドル(約1万円)から高いものでは500ドル(約6万円)という価格で取引されているそうです。
Toonmakers Sailormoon ~ The Saban Moon Never Seen!!
http://www.moonsisters.org/moonsisters/ToonMakerS/ToonmakersSailormoon.htm
ワード氏がTeam Angelの制作に着手したのは、1995年にアメリカで放映が始まった第1弾のセーラームーンが失敗に終わったことを受けてのこと。当時はまだどこかに「アニメ=安っぽい」という認識が存在していたのが失敗の理由とされていますが、ワード氏は実写版に変更することで「女の子版パワーレンジャー」としてセーラームーンを売り込む方針を掲げていたとのこと。しかしその後、1998年に大手の「カートゥーンネットワーク」がアニメ放映権を買い取って放映したところ、大ヒットとなって実写版(とハイブリッド版)のセーラームーンはお蔵入りになってしまったそうです。
ワード氏はその後、アニメの世界から完全に離れており、アメリカ国内でセーラームーンのファンコミュニティが存在していることも知らなかったとのこと。Kotakuの記者に「マーケットが存在していることを知っていたのに、アニメ版が大成功したことを知るのは辛いことか」と訪ねられたワード氏は「とても辛いことだね」と答えたそうです。
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