「光速に近づくと世界はどう見えるのか?」を手軽に体験可能なムービーが公開中
理論物理学者のアルベルト・アインシュタインが提唱した特殊相対性理論は、ニュートン力学では説明できない光速に近い運動について説明していますが、実際に光速に近い状態を脳内で想像することは非常に難しいものです。そんな光速に近い状態における世界の見え方を、ムービーでわかりやすく体験できるようにする「Captain Einstein」というプロジェクトが、ベルギーのゲント大学の研究チームによって行われました。
Captain Einstein – Original boat tours since 1905
http://captaineinstein.org/
Captain Einsteinプロジェクトではわかりやすさを優先するために「光速は時速20km」だと仮定し、ボートに乗った状態で光速(時速20km)に近づいたムービーを作成しました。作成された360度ムービーは、以下で見ることができます。
Captain Einstein
ムービーはボートにのって穏やかな川を進むというシチュエーションで始まり、「ようこそ。私はマヤ・アインシュタインです」という女性の声が流れます。このアインシュタインと名乗る女性が、不思議なムービーのガイド役として話してくれます。
360度ムービーでは、画面左上の矢印をクリックしたり、再生画面そのものをドラッグすることで視点移動が可能。右を向いてみたり……
後ろを向いてみたりすることが可能。
上を向くこともできます。
「現実世界での光速は秒速30万km(時速約10億8000万km)というとてつもないスピードであり、なかなか体験することができません。ところが、このバーチャル世界では光速が時速20kmに設定されています」と船長さんはガイドしてくれ、不思議な体験へのイントロダクションを行ってくれました。「準備はいいですか?3……2……1」というかけ声と共にボートが加速し……
ボートが進むスピードが時速8km(ムービー内における光速の40%のスピード)になると、世界の見え方が変わりました。前方の風景は青みがかって見え、建物の線が少し曲がったように感じられます。
右を向いてみると、建物が前方につんのめるように曲がっていることが確認できました。
上を向いてみると、空の色が前方では青井っぽいのに比べて、後方になるにつれて黄色がかっているのがわかります。
「私たちの後ろは、全てが黄色に染まっています」という船長の声に後方を振り向くと、確かに視界が黄色に染まり始めていました。
なぜこんな風に建物がゆがんだり色が変化したりするのかというと、「光速は全ての観測者に対して不変」という特殊相対性理論の前提にもとづいて説明できます。まず、光は有限の速度(ムービー内では時速20km)で移動するため、建物の像は屋根の上も土台の部分も同じ時速20kmというスピードで観測者の目に届きます。ところが、観測者の移動スピードが光速に近づくと、観測者の移動スピードに対して風景の像が届くスピードが遅くなり始めます。そのため、比較的観測者に近い建物の土台は普通のように見えても、観測者から遠い建物の屋根などは遅れて観測者の目に届くため、同じ建物でも下部と上部で像が届くスピードに差が出てしまい、結果として前につんのめるような形で曲がって見えてしまうのです。
観測者の前方は青みがかって見えるのに対し、後方になるにつれて黄色っぽく見えるのは光のドップラー効果によるもの。近づく光源からの光は青っぽく見え(青方偏移)、遠ざかる光源からの光は赤色っぽく見える(赤方偏移)という性質に従い、光速に近いスピードで近づく前方の光は青みがかって見える一方、猛烈なスピードで遠ざかる後方の光は赤色っぽく(現時点では黄色っぽく)見えるという仕組みになっています。
「これまでは光速の40%の速さでしたが、ここらへんで光速に対して3分の2のスピード(時速13km)まで加速してみましょう」と語る船長。グーンという音と共にボートは加速し……
時速13kmに達しました。前方は気持ちが悪いくらいに青みがかり、紫色っぽい部分もあります。
建物のゆがみは冗談かと思うくらい。
後ろを振り向いてみると、赤方偏移の影響で真っ赤に染まっていました。
頭上を見上げると、赤色から青色へのグラデーションがはっきりとわかります。
「もっとスピードをあげて、時速17km(光速の85%)まで加速しましょう」と船長が告げると……
前方には紫、水色、青色が幾重にも重なった不思議な虹のような光景が見えました。
横を向いてみると、光速に近い状態ではローレンツ収縮と呼ばれる現象で建物が運動方向に収縮して観測されるため、横幅が狭められ、建物の高さが前方になるにつれて小さくなっている状態が観測可能。
そして、もう少し後ろを振り返ってみると黒々とした空間が広がっていました。
ボートの速度が光速にとても近くなり、通り過ぎた景色の光はもはやボートに追いついてくることができません。
頭上を見ると、黄色と赤色の幅が非常に狭くなり、頭上付近で黒色に変化しているのがわかります。
頭上を橋が通過するだけで、景色が気持ち悪いくらいにゆがみました。
さらに加速を続けて時速19km(光速の99%)に達すると……
景色はゆがみ、前方にリング上の光のグラデーションが見えます。
少し横を振り向くと、黒い部分がボートの斜め前まで増えていました。
さらに光速へ近づき続けるボート。次第に正面を見ていても黒い部分が視界の端に見え始め……
進行方向以外の光がほとんど届かなくなります。
そのまま光はどんどんボートに追いつけなくなり……
世界は完全なる闇に包まれてしまいました。光速の物体が見る景色とは、何も見えないのと同義なのです。
なお、Captain Einsteinの360度ムービーはGoogle Playストアでもダウンロード可能。Gear VRのようなスマートフォンでVRを体験できるデバイスを利用して、光速に近づいた世界を体験することができます。
Captain Einstein - Google Play のアプリ
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