自動車のスマートキーは金属製の空き缶に入れて保管した方がよい、その理由とは?
By Geoff
ポケットに入れて車に近づくだけで、ロックを解除してくれたり電装品の電源を入れてくれたりする「スマートキー」を使う自動車が非常に多くなってきましたが、その便利さの反面でセキュリティの問題が存在していることをよく理解している人はそれほど多くはないはず。機器の仕組みをよく知るセキュリティ専門家の中には、自分の車を守るためにスマートキーは必ず鉄製の缶の中に入れて保管する人もいるほどです。
Why you should keep your car keys in a metal coffee can
https://www.freep.com/story/money/cars/2018/05/30/car-keys-metal-coffee-can/629027002/
スマートキーは、電波を使って車載の機器と通信することでドアの解錠などの機能を実現しています。それまでのカギのようにドアの穴に鍵を挿しこんでガチャガチャとする必要がないことや、物理的にカギを模造されることによる盗難のリスクをグッと下げることができるというメリットで、今では多くの自動車に採用されています。
しかし、人間の作ったものには必ずどこかに何らかの「抜け道」や「攻略法」が存在するもので、スマートキーもその例に漏れず完全に安全ということはありません。
By Koyono
事実、セキュリティに関する情報を熟知した専門家の中には、自宅や職場などでスマートキーを保管する場合には無防備にキーフックなどにかけず、スマートキーがスッポリと収まる大きさの鉄製の容器に入れておく人もいます。元イスラエル空軍のパイロットで、セキュリティ関連企業「GuardKnox Cyber Technologies」のCEOであるMoshe Shlisel氏は「実際に、セキュリティ専門家の中にはスマートキーを鉄製の容器に入れてからじゃないと眠りにつかない人もいます」と語ります。
その理由は、スマートキーと車体の電波通信をハックしてしまうことで、自動車を盗んでしまうと言う手口が存在するため。スマートキーの接近を検知し、そのスマートキーが車両に紐付けられた正しいものであることを確認することで「解錠OK」という判断を行うために、スマートキーは一定のプロトコルにのっとった通信を電波を通じて行っています。この通信を傍受したり、あるいはあたかもユーザーが自動車に接近したかのような状況を作り出すことで機能を動作させ、ドアを開けてエンジンをかけ、そのまま走り去ってしまうことができることがすでに実証されています。
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このように、従来の物理的なカギほどではないにせよ、スマートキーにも攻略法は存在します。そこで、この問題に巻き込まれないようにするための方法として「鉄のカンの中にスマートキーを入れておく」ということを実践する人がいるというわけです。
鉄製の容器のスマートキーを入れる理由、それは鉄でできた容器がファラデーケージと呼ばれる空間を作ることができるというところにあります。スマートキーが使う電波は電磁波の一種で、電線などの導体がない空間を伝わってきます。この電波は建物の壁など多少の障害物であれば透過してしまうことができますが、ファラデーケージの中に入ってくることはできません。鉄などの「導体に囲まれた内部には電気力線が侵入できないため、外部の電場が遮られる」という働きが存在しているためです。
スマートキーをハックする際にはまず、車両から発されるものと同じ電波を発信する装置をスマートキーに近づけます。すると、電波を受け取ったスマートキーが反応して信号を発するので、その電波を傍受することで偽の通信を作り出し、車両のセキュリティを解除してしまいます。ファラデーケージの効果を利用した防御方法は、第三者によって自分が知らないうちに近づけられる通信装置の電波をシャットアウトすることで、このようなリスクを回避してしまうというものです。
By pequeña esquimal
先述のShlisel氏は「脆弱性はあらゆる場所に存在します。スマートキーはその最たる例です」「あなたの周りには、いくつもの攻撃方法が実在しています。20年前のコンピューターには『ファイアウォール』などの仕組みが整っていなかったのと同じです。もし、自分の子どもを乗せて高速道路を走行中に他人が自動車のコントロールを乗っ取ったらどうなるでしょうか?そんなことが、今では可能になっています」と述べ、個人で対策を取ることの重要さを説いています。
このように、スマートキーにはセキュリティリスクが存在しているわけですが、これに輪をかけて大きな問題になるリスクを抱えているのが「コネクテッドカー」、すなわち車両がインターネットにつながっている近年の自動車です。今後は自動車のIT化がさらに進み、AIを搭載した自動運転車が普及すると、街にインターネットにつながった車両であふれる時代が訪れることも十分に考えられます。AIが車両の加減速やハンドル操作を行えるようになると、もしハッキングの被害を受けた時には単に「カギを盗まれた」ということ以上の大きな影響が及ぶことも容易に想像されるため、十分に強固な対策が求められるところです。
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