金属ガラスの発見を「機械学習」で200倍高速化することに成功
機械学習の技術は人工知能(AI)開発や画像認識技術など、さまざまな分野に広く活用されています。そんな中、科学の世界で機械学習を利用して、これまでにない発見を目指す試みが行われており、アメリカの研究者は金属ガラスの合成パターンを従来の100倍以上の速さで見つけることに成功しています。
Accelerated discovery of metallic glasses through iteration of machine learning and high-throughput experiments | Science Advances
http://advances.sciencemag.org/content/4/4/eaaq1566
Artificial intelligence accelerates discovery of metallic glass - Northwestern Now
https://news.northwestern.edu/stories/2018/april/artificial-intelligence-accelerates-discovery-of-metallic-glass/
元素配列に規則性がないアモルファス金属の中でも、ガラス転移を起こす金属ガラスは、高い耐腐食性や耐摩耗性を持ち鋼以上に剛性が高くかつ軽い素材を実現できると考えられており、次世代材料として大きく期待されています。しかし、金属ガラスは生成方法が発見されて以降、50年間に見つかった金属生成の組み合わせは限られており、実用化が期待されるものは数種類にとどまっているとのこと。これは、金属の組み合わせが数百万種類ありその配合まで含めると膨大な量で、有望な候補に絞ったとしても数多くの実験を行うことが求められるからです。
ノースウェスタン大学、SLAC国立加速器研究所、NISTによる研究グループは、金属ガラスを生成のために機械学習を取り入れて、数百のサンプル資料を素早く作成してスクリーニングすることに成功し、新たに3種類の金属ガラスを発見したと報告しました。この研究の論文はScience Advancesで発表されています。
機械学習技術を金属生成予測に活用する研究チームはこれまでにもありましたが、本論文の共同著者のアパーバ・メタ博士は、「私たちのアプローチのユニークなところは、測定結果を使って素早く予測を行うところで、繰り返された結果を次の機械学習プロセスや実験に反映させた点です」と述べています。
研究ではWolverton研究所の大学院生のローガン・ワード氏が作成した機械学習アルゴリズムを使って、過去50年にわたって収集された6000件の金属ガラス生成実験のデータを取り込んだとのこと。最初に機械学習アルゴリズムが学習したことに基づいて2つの異なる方法でサンプル合金を生成し、この合金をX線スキャンした結果をデータベースにして新たな機械学習を行い、さらに別のサンプルを合成するというプロセスが行われました。プロセスを経るごとに、300~400の資料から1つの金属ガラスを発見するという割合が、2~3つの資料から1つの金属ガラスを発見できるまでになったそうで、機械学習を取り入れることで金属ガラスを発見するのに必要な速度は従来の方法に比べて約200倍に高められたと報告しています。
特に、実験で採用された機械学習アルゴリズムは従来の「理論」を理解する必要はない点が重要で、研究グループが作り出した機械学習システムは他の研究に応用できるものだとのこと。従来、人間がせざるを得なかった非創造的な実験プロセスから人間を解放することで、人間の研究者は自己の持つ直感と創造性を必要とする他の作業に集中できるようになり、科学コミュニティ全体へ良い影響を与えられるのではないかとメタ博士は考えているそうです。
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