サイエンス

脳は新しいタスクを学ぶ時にでも既知の習慣に固執する場合があることが判明


何か新しいことを学ぼうとする時、人間はいつの間にか新しい事柄を過去の経験に照らし合わせて理解しようとすることがあるものです。脳とコンピューターのインターフェースを用いた研究からは、その過去の知識が原因となって、新しいことを学ぶことが難しい理由が明らかになってきました。

Brain-Computer Interfaces Show That Neural Networks Learn by Recycling | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/brain-computer-interfaces-show-that-neural-networks-learn-by-recycling-20180327/

人間などの高等生物に備わっている知能の特徴は、「学ぶことができる」という能力にあります。過去数十年の研究ですでに示されているように、私たちの脳には高度な「可塑性」が備わっており、脳のニューロンは新しい刺激に反応してそのつながりを再構築することができます。

しかし、カーネギーメロン大学とピッツバーグ大学の研究者たちは、この学習能力にある制約があることを発見しました。脳は非常に柔軟性があり、総じて適応性が備わっていますが、少なくとも短い時間軸においては学習の際にゼロからニューロンのつながりを再構築するのではなく、既存の「ニューロンのレパートリー」から学習済みの内容を「リサイクル」するという非効率な方法を取ることが明らかになっています。


研究のリーダーの1人であるカーネギーメロン大学のバイオメディカルエンジニアで神経科学者のバイロン・ユー氏は、「スカッシュをするたびに、私は自分がテニスプレーヤーであることを思い知らされる」と語ります。ユー氏は何年にもわたるテニスの経験がありますが、ことスカッシュをプレイする時にはその経験があだとなり、スカッシュ特有のプレイスタイルになじむことができないとのこと。スカッシュではテニスよりも短いラケットを使うため、テニスとは異なるより速いショットが要求されますが、ユー氏はついテニス流のプレイをしてしまうとのことで、脳がすでに知っていることを忘れようとしないことがプレイに現れてしまっているそうです。

ユー氏は、研究の同僚たちと一緒に学習中の脳の活動を観察することで、同様の可塑性の欠如の証拠を神経レベルで目にしてきました。その発見とチームの関連する研究からは、いくつかの事柄は他のものよりも学ぶことが難しい理由が浮き彫りになってきています。

数年前、ユー氏とピッツバーグ大学のアーロン・バティスタ氏ら研究所のメンバーは、脳内を詳細に調査するためのツールとして「BCI」(brain-computer interfaces:脳コンピュータインターフェース)を使い始めました。このデバイスは、運動をつかさどる脳の「運動野」において一度に100個のニューロンの電気的活動を追跡することができる、爪の大きさほどのサイズのチップで、時間の経過とともに個々のニューロンを流れる電圧スパイクのシーケンスを監視することによって、タスクの実行中の各ニューロンの挙動を特徴付ける「スパイク速度」を計算することが可能です。


このデバイスは人の目よりもはるかに高いパターン認識能力を備えており、被験者の脳内で起こっている変化を確実に捉えることができます。被験者が何か行動を起こそうとすることを脳の神経レベルで捉えることが可能となっており、腕を上下あるいは左右に動かそうとする時の脳の働きを検知することができるそうです。

この装置を使って学習の際における脳のニューロンの働きを詳細に調査したところ、当初予測されていたニューロンの「再配置(realignment)」と呼ばれる働きではなく、「再結合(reassociation)」と呼ばれる非常に非効率的なアプローチが取られていることを発見しました。実験に使われた動物の脳の中では、既存の神経活動パターンを繰り返し、それらの課題を交換することだけによって新しいタスクが学習されていたことが明らかにされています。かつてカーソルを左に動かしていたニューロンの塊は今やカーソルを右に動かし、右に動かしていた塊は左に動かす、という「リサイクル」が行われていることが確認されたとのこと。

これはつまり、脳が新しいことを覚える際には古い学習内容をベースにしているということであり、ひいては「何かを覚える時には古い学習内容の影響を受けることがある」ということを意味しています。バティスタ氏は「短期的に見れば、脳の可塑性は我々が思ったよりも限られているのかもしれません」「学習は忘却を必然的に伴います。脳は、既に覚えているやり方を捨ててしまうことを嫌っているのかもしれません」と述べています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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