個人向け倉庫産業は4兆円規模、アメリカでは11人に1人が自分の「倉庫」を持っている
by Ted Sali
日本ではあまりなじみのない個人向け貸倉庫ですが、アメリカでは実に11人に1人が利用しているポピュラーな存在。そんな個人向け貸倉庫産業についてまとめた記事が、アメリカとカナダの不動産情報を中心に取り上げるメディアであるCurbedに掲載されています。
Self-storage: How warehouses for personal junk became a $38 billion industry - Curbed
https://www.curbed.com/2018/3/27/17168088/cheap-storage-warehouse-self-storage-real-estate
景気後退や人口分布の変化にもかかわらず、個人向け貸倉庫は非常に堅調な成長を示しています。アメリカでは11人に1人が個人向け貸倉庫に登録しており、平均で月額約91ドル(約9600円)を支払っているとのことで、個人向け貸倉庫産業全体では380億ドル(約4兆円)を超える規模を誇っています。市場調査組織のIBISWorldの調査によれば、個人向け貸倉庫産業は2012年から年率7.7%の成長率を達成しており、アメリカ国内で14万4000人の雇用を生み出しているとのこと。
貸倉庫企業のSpareFootによれば、アメリカには全部で5万以上の貸倉庫施設が存在し、約23億平方フィート(約214平方キロメートル)もの面積が貸倉庫として利用されているそうです。貸倉庫の中に入っている個人の所有物でアメリカの巨大ダムであるフーバーダムを埋め立てると、なんと26回も埋め立てることが可能です。
過去数十年にわたって個人向け貸倉庫産業が好調だった理由として、アメリカ中西部や北東部の広い住居から産業地帯のサンベルトにある狭い住居に引っ越した人々が、かつて住んでいた広い家に置いてあった所有物を個人向け貸倉庫に保管するパターンが多かったことが挙げられます。都市部では住居の家賃が非常に高額で、人々は中心部近くになるほど狭い部屋に住むことを余儀なくされ、モノを捨てるか貸倉庫に保管するかの選択を迫られます。
by Eddy Milfort
個人向け貸倉庫産業の好調を受けて2017年には40億ドル(約4200億円)もの設備投資が行われており、株式関連メディアのInvest Dailyによれば2017年だけで4000万平方フィート(約3.7平方キロメートル)の面積が新たに倉庫として開発され、800もの貸倉庫施設が新設されているとのこと。放棄されたショッピングセンター跡地を新たな貸倉庫の候補とする投資家が多く、貸倉庫は安定した収益が見込める利回りのいい投資とされています。さらに、Clutterのようなハイテク貸倉庫のベンチャー企業では、利用者のために保管する荷物の梱包や移動、戸口までの配達を行うところもでてきました。
貸倉庫産業の歴史は古く、マーティン・ベーキンスとジョシュ・ベーキンスの兄弟が設立した運輸会社Bekinsが、1906年に鉄筋コンクリート製の倉庫をロサンゼルスの新しい住民向けに作ったことに始まります。それから貸倉庫産業は大量の人々の転居、住居の小型化、時には差し押さえなどの影響を受けつつ発展していきます。
近年、都市部の個人向け貸倉庫の賃料が急激に上昇しており、商用や居住用の賃貸に比べて貸倉庫の賃料は2~3倍にも上るとのこと。ところが、そんな状況であっても都市部の個人向け貸倉庫は90%以上が使われている状態で、なかなか手放す人が現れないそうです。
by mariusz kluzniak
人々が高い賃料でも自分の貸倉庫を維持し続ける理由に、「一度契約してしまうと解約するのも場所を移すのも面倒」というものがあります。倉庫の中のものをどこかに動かすにも大きな手間とお金がかかるため、倉庫のオーナーが値上げを決めたとしても、別の倉庫を探す気にはならないのです。また、一度契約すると、毎月支払っている固定賃料にあまり注意を払わなくなるのも一因です。
SpareFootの調査によれば、個人向け貸倉庫を経営する会社のうち6社が10億ドル(約1100億円)以上の規模を持つ企業ですが、それらを合わせても個人向け貸倉庫産業全体の18%程度にしかなりません。全体の74%は零細企業であり、少しのスペースで経営を続ける個人向け貸倉庫のオーナーが大量に存在しているとのこと。
どこまでも好調が続くように見える個人向け貸倉庫産業ですが、ウォール・ストリート・ジャーナルによると今後の人口推移によっては、個人向け貸倉庫のブームは終わりを迎える可能性があるそうです。都市部の若い世代は生まれたときから狭い住居に住んでおり、必要以上のモノを所有しません。そのため、家にモノがあふれかえるということもなく、親世代と比べると個人向け貸倉庫を利用する必要性が低下するだろうとのこと。また、カーシェアリングの一般化に伴って車の個人所有率も低下し、個人向け貸倉庫を車庫として使用するパターンも減ると見込まれています。
by Chris Guy
しかし、個人向け貸倉庫業界はこれらの障害を小さなモノだと考えており、アメリカ国外のアジア、特に中国は巨大な成長市場として注目を集めています。今後もしばらくの間、個人向け貸倉庫業界の好景気は続きそうです。
・関連記事
ウクライナ東部の弾薬貯蔵庫で爆発事故が発生し2万人が避難、「ドローン爆撃による破壊工作」説も - GIGAZINE
Amazonのように商品を倉庫に在庫して小売業者の物流を肩代わりする「FedEx Fulfillment」が稼働を開始 - GIGAZINE
荷物を載せて自動で人を追いかける荷物運搬ロボ「Gita」をベスパの親会社Piaggioが発表 - GIGAZINE
ロボット化が進む最新のAmazonの出荷倉庫「フルフィルメントセンター」で商品が出荷される様子 - GIGAZINE
3Dプリンターで作られた「家」が発展途上国の家不足を救うかもしれない - GIGAZINE
・関連コンテンツ