ウェス・アンダーソン監督作品を魅力的にする13の要素とは?
2018年5月25日(金)より全国公開される、日本を舞台にしたストップモーションアニメ映画「犬ヶ島」のウェス・アンダーソン監督の作品に共通する13の要素をまとめたムービーを、映画やテレビ番組の解説を行うチャンネルScreenPrismが公開しています。
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1.独特で表現豊かな美術演出
ウェス・アンダーソン作品は小道具からセットに至るまで圧倒的に緻密にできていて、シーン内の情報量が極めて多く、私たちはカメラに映っていない部分にもわくわくするようなものが眠っているのだと気づかされます。
評論家のマット・ツォラー・サイツ氏によると、ウェス・アンダーソン監督は小物・場所・衣服などによる提喩をよく用いていて、小道具やロケーションによって登場人物の人間性・関係性・葛藤を描いているとのこと。例えば、「グランド・ブダペスト・ホテル」では、おしゃれなグスタヴを象徴するアイテムとして、ル・パナシュの香水が要所要所で登場します。
また、「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」のチャズ一家は赤いジャージが印象的でした。
2.大人のように振る舞う子どもと子どものように振る舞う大人
ウェス・アンダーソン監督の映画には達観したような物言いをする子どもたちがしばしば登場しますが、漫画「ピーナッツ」の作者であるチャールズ・M・シュルツの影響があるといわれています。
「ムーンライズ・キングダム」のサムとスージーはわずか12歳ですが、ジャン=リュック・ゴダールの「気狂いピエロ」に強く影響されたようなシーンもあり、子どものカップルとは思えない姿を見せる瞬間があります。
一方で、ウェス・アンダーソン作品に登場する大人は子どものような振る舞いをする様子が多くみられます。「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」でのマーゴとリッチーがテントの中で語り合う姿には、まるで初恋を実らせたカップルのような初々しさを感じます。
「天才マックスの世界」で、1人の女性を巡って15歳のマックスと本気でケンカをするハーマンがマックスの自転車を車でひいて壊してしまう場面は、中年男性の大人げなさを象徴的に感じるシーンです。
しかし、子どものように振る舞う大人といっても、決して悪いものとして描かれていません。ウェス・アンダーソン作品の大人たちは観客に、大人もリラックスして子どものように楽しむことができるということを教えてくれるのです。
3.突然冷静さを失う登場人物
「グランド・ブダペスト・ホテル」より、警察が自分を逮捕しにきたことに気づき、会話をストップして突然逃げ出すグスタヴ。
「ダージリン急行」ではちょっとしたことから唐突に兄弟で大げんかを始めるシーンがありました。
サイツ氏によると、登場人物の顔をカメラで捉えて心情を表現する手法はオーソン・ウェルズの作品からの影響がうかがえるとのこと。
4.機能不全に陥った家族関係
「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」は家族をテーマにした作品でしたが、主役となるテネンバウム一家はかなり複雑な事情を抱えていました。
「天才マックスの世界」のマックスは、自分の父親が理髪店を営んでいることを恥じていて、「父親は外科医だ」とウソをつくシーンも。しかしマックスはその後成長し、理髪師である父親に誇りを持つようになります。
「ダージリン急行」は、仲の悪い3兄弟が行方不明になった母親へ会いに行くというストーリーでした。複雑な家庭環境は作品内での葛藤や対立を生むだけではなく、問題の解決や調停にもつながります。
5.脱出
ウェス・アンダーソン作品には何かから脱出するシーンがよく描かれます。例えば「ムーンライズ・キングダム」では、サムとスージーが駆け落ちをしようとします。
「グランド・ブダペスト・ホテル」では、グスタヴとゼロが列車に乗って、戦争のため厳重に警備されている国境を越えるシーンがありました。
6.個性的でわかりやすいセリフ回し
登場人物のセリフは、独特なリズムとセンスの上に成り立った象徴的なものが多く、話し方によって登場人物の性格や心情を表現しています。
話す内容だけではなく、間やテンポによって作品独特のユーモアが生まれています。
7.ビル・マーレーなどの定番キャスト
ウェス・アンダーソン作品に何度も出演し、常連とも呼べるような俳優が何人もいます。特に彼の作品を象徴するキャストといえば、「ゴーストバスターズ」でも知られる喜劇俳優のビル・マーレイで、「ライフ・アクアティック」では主演も務めています。
脚本にも参加するオーウェン・ウィルソンも常連キャストの1人です。
おなじみのキャストとしては他にもウィレム・デフォーや……
ジェフ・ゴールドブラムらが挙げられます。
8.アール・ヌーヴォー調の色彩感覚
マダムの衣装とエレベーターの壁が目に鮮やかな赤で統一されている「グランド・ブダペスト・ホテル」
「ダージリン急行」の内装と乗務員の制服
衣装や小道具だけではなく、セットも含めて統一した色彩が追求されていて、さらには画面にフィルターもかけられています。
9.独特のカメラワーク
独特で個性的なカメラワークはオーソン・ウェルズの影響を受けているとムービーでは指摘されています。
「犬ヶ島」では、懐中電灯を照らすアフロヘアーの女性から真横にカメラがパンし、懐中電灯が1枚の写真を照らし出すシーンへなめらかに移ります。
また、広角でふかんするようなショットや……
中心に人物を配置し、左右対称になるような構図のショットもウェス・アンダーソン作品の特徴です。
登場人物が何か行動を起こそうと移動を始めると、その背後から追いかけるように撮影するというカメラワークもよく見られます。
10.スローモーションの使い方
カメラワークと並んでよく見られるのがスローモーション演出です。特に「ダージリン急行」の冒頭で、列車に乗り遅れそうになって走るピーターと結局追いつけずに乗り遅れる老紳士の場面が印象的です。
ラストで三兄弟がダージリン急行に乗ろうとするシーンは冒頭と対比になっていて、こちらもスローモーション演出が用いられています。
11.60年代から70年代の音楽
劇中の象徴的なシーンで流れる曲は、60~70年代の少しマイナーなナンバーで、歌詞の内容を登場人物の心情に重ねるという演出がとられています。
最新作の「犬ヶ島」でも古い音楽を使った演出が採用されている模様。
12.劇中劇
劇の中でさらに別の劇が展開するというシーンも、ウェス・アンダーソン作品ではよく見られます。「ライフ・アクアティック」の主人公は海洋冒険家兼映画監督という設定で、劇中でドキュメンタリー映画の撮影が行われています。
監督自身の高校時代をモデルにしたといわれる「天才マックスの世界」では、マックスが演劇の脚本・演出を行い、ベトナム戦争を題材にした劇が高い評価を受けるというシーンがありました。
「ムーンライズ・キングダム」でも、スージーが主役を演じる劇がしっかりと描写されていました。
13.ほとんどの脚本が誰かと共同で著されている
ウェス・アンダーソンは、作品の脚本の多くを他人と共同で制作しています。「天才マックスの世界」「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」はオーウェン・ウィルソンとの共著です。
「ライフ・アクアティック」「ファンタスティック Mr.FOX」の脚本はノア・バームバックと共同制作しています。
「ダージリン急行」「ムーンライズ・キングダム」の脚本執筆にはロマン・コッポラも参加しています。
他にも「双眼鏡」「Futura書体の多用」「突然の暴力」「立体物を用いた幕間の演出」など、ウェス・アンダーソン作品には多くの特徴が存在します。ウェス・アンダーソン監督の映画を鑑賞する時には、演出にも注目するとこれまでと違った見方ができるはずです。
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