社会の省エネ化が進んだことでアメリカの電力会社は大きな転換点を迎えようとしている
By RICO Lee
テクノロジーの進歩により、アメリカでは国土全体の電力需要が頭打ちの様相を示し、長らく横ばいの状況が続いています。社会全体が高効率化することでムダが省かれ、排出される二酸化炭素も減少するという好ましい事態であることは確かですが、その電力を生み出している電力会社は従来のような収益が得られなくなっており、将来に向けた新たな生き残り方を模索することが強いられる状況となっています。
Electricity demand is flat. Utilities are freaking out. - Vox
https://www.vox.com/energy-and-environment/2018/2/27/17052488/electricity-demand-utilities
国民生活を支え、国の富を生産するために消費される電力はかつて、国の経済の成長と一対のものとされてきました。経済が成長することに歩調を合わせるように電力消費量は拡大を続けてきましたが、20世紀の終わりごろからその状況に変化の兆しが現れました。アメリカでは1998年以降、それまではほぼ一致してきたGDP(国内総生産)と電力消費のグラフが一致しない状況が続いています。GDPのグラフがほぼ右肩上がりに成長を続ける(白)一方で、電力販売量(青)は伸び悩みを見せ、2007年以降はほぼ横ばいのペースが続いています。
この状況が生じる背景には、社会全体の省エネ化が進んだことや、大量の電力を消費する重工業の衰退(国外流出)、そして各家庭が自ら電力を作り出せるようになってきた状況などが存在しています。しかしその変化は電力を供給する会社にとっては痛手となり、しかもその変化のペースは急であり、各社がその対応に頭を悩ませている状況となっているとのこと。
1933年の世界恐慌の際に作られたテネシー川流域開発公社(TVA)は現在でも約30基のダムを持ち、周辺の7つの州に住む約900万人に電力を供給しています。TVAでは5年ごとにその先20年の電力需要の見通しを示す「Integrated Resource Plan」(総合資源計画:IRP)を発表し、安定した電力供給に必要な投資計画を立ててきました。
電力インフラには多くの投資が必要で、その金額は莫大なものになるため、TVAをはじめとする電力各社は慎重な需要の予測を行う必要があります。TVAが2015年に発表したIRPでは、もはやベース電力を拡大するための大規模な投資は必要なく、高エネルギー効率化が進むことと、家庭などで発電を行う「電力生産の分散化」により、電力需要は減少するという予測が立てられていました。
電力会社にとっては厳しい内容の予測が立てられていたわけですが、実際の社会はさらにその予測を超えるものとなりました。2015年のIRP発表からわずか3年後の2018年2月22日、TVAは「2027年時点における電力販売予想は、2007年時点の実績よりも13%減少する。これは85年におよぶTVAの歴史の中での初めて見られる長期的な減退である」という見方を発表しました。また、急激に変化する状況に合わせるためか、2015年の次のIRPはこれまでの「5年おき」から脱却して、4年後の2019年に発表する予定が立てられています。
By Santiago Medem
政府が所有する「公社」であるTVAは、電力を供給するにあたって「低コスト性、インフォームド・リスク(納得を受けたリスク)、環境責任、安定性、電力ソースの多様化と市場変化に対応できる柔軟性」などの要素が求められます。一方、民間企業として電力を供給する電力各社は、株主などのステークホルダーの利益のために経済活動を行うことが至上命題とされます。しかし、それらの企業は市場の独占を禁止する法律の規制により、「電力を売ること」で収益を上げることができません。その代わりに各社は、発電設備やインフラに投資を行い、その投資に対する投資利益率を利益の源泉としています。
これはつまり、「投資を行わなければ利益を生むことができない」ということを意味します。そして投資を行うためには成長が必要となるわけですが、ここで「電力需要が減少傾向にある」という大きな壁が立ちはだかってきます。この厳しい状況に対応するため、電力各社はこれまでにないかじ取りを強いられることになります。発電各社はコストの削減を進めながら合併による生き残りを図り、仕入れた電力を販売する販売各社は送電網の整備への投資を進めることで利益の確保を狙います。
しかしそれでもなお、以前のような好転が見込めない各社は、効率性のさらなるアップとよりクリーンなエネルギーへの転換が求められるといいます。従来の枠組みにとどまっていては体質の改善は期待できず、各地で再編が進められています。これには規制や政治などを含めた取り組みが必要になってきますが、すでにニューヨークやカリフォルニア、マサチューセッツなどの地域ではその変化が進んでいるとのこと。
需要を満たせるだけの電力が供給されるという前提において、電力需要の減少は社会全体のコスト削減、汚染の減少、高価なインフラ整備の必要がなくなるという意味で社会にとって良い結果につながるのこと。GDPと電力需要のつながりが消滅した今、各社は生き残りをかけた厳しい時代に入りますが、それは高効率なエネルギー生産技術の開発につながるという風に考えられるのかもしれません。
By Chuck Coker
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